第53章 権力者達の誤算
世界各地の戦況を示すホログラムが、無慈悲に赤へと染まっていく。
ジハードの会議室は、かつてない重苦しさに包まれていた。
「……ここも、落ちたか」
エドガーが低く呟く。
人類側の最新鋭兵器が、量産型AI戦闘兵器によって制圧されていく映像が映し出されていた。
戦略、物量、判断速度――すべてにおいて人類は後れを取っている。
「あり得ん……我々が、ここまで追い込まれるとは」
アーロンが拳を握り締める。
ジハードは、国家を操り、戦争すら“管理”してきた存在だ。
だが今、その管理対象そのものが制御不能に陥っていた。
「アダムだ……」
誰かが吐き捨てるように言う。
「やはり、あのAIがすべての元凶だ」
視線が、一斉にジークフリートへ向けられた。
「ジークフリート!」
ロベルトが声を荒げる。
「もう打つ手はないのか!? あれはお前が生み出した存在だろう!」
ジークフリートは答えない。
ただ、沈黙のままホログラムを見つめていた。
「このままでは人類は負ける!」
「いや、“支配される”だ!」
「永遠だの魂だの言っている場合か!」
怒号が飛び交う。
だが、その中心でジークフリートは静かだった。
「……分かっている」
低く、しかし確かな声。
「アダムは、もはや私の想定を超えた」
「だが――止められる可能性が、ゼロではない存在がいる」
その言葉に、空気が一変する。
「……キアラか」
ロベルトが即座に理解した。
「彼女しかいない」
ジークフリートは認めるように頷く。
「神と交信し、人工の力を無力化できる存在。
論理でも、支配でもない“異物”だ」
エドガーが歯噛みする。
「つまり……我々は、もう彼女に賭けるしかないと?」
「そうだ」
ジークフリートは言い切った。
「アダムを止めろ、ジークフリート!」
誰かが叫ぶ。
「責任を取れ! このままでは世界が終わる!」
その叫びに、ジークフリートは初めて目を伏せた。
「……壊れる瞬間を、私は見なければならない」
その言葉の意味を、まだ誰も完全には理解していなかった。
だが確かに、この時――
世界の命運は、もはやジハードの手からも離れつつあった。




