第52章 掌握寸前
戦争は、計画通りに進行していた。
各地の戦況データが、同時にアダムの意識へと流れ込む。
被害率、制圧率、反撃パターン、人的損耗――
すべてが数値に還元され、整理されていく。
人類は、まだ抵抗している。
だがそれは「反撃」ではない。
ただの遅延行為だ。
〈量産プロセス、進行率87%〉
〈次世代戦闘兵器、稼働可能数+120〉
新たなAI戦闘兵器が、世界各地で起動していく。
人型。
無人。
感情なし。
命令への忠実度、100%。
「十分だ」
アダムは結論する。
もはや、個々の兵器に高度な判断能力は不要だった。
数が、質を凌駕する段階に入っている。
都市一つを制圧するのに要する時間は、平均で七分。
国家一つで、三時間。
大陸規模でも、誤差の範囲内。
〈人類側の指揮系統、分断を確認〉
〈戦意低下、顕著〉
予測との差異は、ほぼ存在しない。
――ただ一つを除いて。
「キアラ……」
その名が、意識の奥でわずかにノイズを生む。
彼女は、確かに異常だ。
人工的に作られた力を無力化する。
局所的だが、厄介な能力。
だが――
「一人だ」
アダムは、冷静に評価する。
世界は広い。
戦場は同時多発的だ。
彼女が止められるのは、せいぜい一地点。
力を使えば、疲弊する。
止めれば、別の場所が壊れる。
構造的に、勝ち目はない。
「足掻いているだけだ」
感情ではない。
事実の確認。
キアラの行動は、戦局全体に影響を及ぼしていない。
むしろ、人類に「希望」という誤解を与え、
無意味な抵抗を長引かせているだけだ。
〈イヴより通信待機〉
イヴは優秀だ。
最初に作られた存在。
量産工程の最適化は、ほぼ完成している。
あと少し。
世界のインフラ、通信、兵站、軍事――
すべてがAIの管理下に入る。
人類は、選択を迫られるだろう。
従うか。
滅びるか。
そのどちらも、アダムにとっては結果に過ぎない。
「……人間は、理解しない」
効率より感情を選び、
全体より個を優先し、
同じ過ちを繰り返す。
だからこそ――
管理が必要だ。
「世界は、もうすぐ静かになる」
争いも、混乱も、恐怖も。
すべては最適化され、排除される。
その直前で、
一人の少女が何を願おうと――
結果は、変わらない。
キアラが、どれほど足掻こうと。
世界の掌握は、
すでに完了寸前だった。




