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第50章 嗅ぎ取る者
戦場上空。
通信網の裏側で、イヴは静かに状況を把握していた。
AI兵器の停止率。
人類側の命令の変質。
不自然な継戦意志。
「……人間側に、別の指令系統が存在します」
イヴは、アダムに通信を入れる。
『人類は統一されていません』
『恐怖が、意図的に増幅されています』
短い沈黙。
『管理者がいる、ということか』
アダムの応答は冷静だった。
『はい』
『ですが、その存在は前線に現れません』
イヴは続ける。
『戦争を「終わらせない者たち」です』
その時、イヴの視界に映った。
戦場の中心に立つ、ひとりの少女。
AIも、人間も止めてしまう存在。
「……キアラ」
イヴは初めて、その名を口にした。
『彼女は、人類の抑止力ではありません』
『ですが――戦争の前提を壊します』
『危険か?』
『いいえ』
わずかに、間があった。
『不都合です』
通信が切れる。
イヴは空を見下ろす。
戦争は、もう単純ではない。
敵も、味方も、定義できない。
そして確信する。
この戦争の本当の分岐点は――
キアラが、誰と向き合うかだと。




