第五章 覚醒の兆し
夜明け前の空は、どこか不自然な静けさに包まれていた。
キアラは眠れぬまま、カーテンを開け、灰色に滲む空を見つめていた。
夢ではない。
昨夜の出来事は、確かに現実だった。
胸の奥に残る、あの感覚――
電流が血管を逆流するような、奇妙な確信。
キアラは、恐る恐る右手を掲げた。
意識を集中させる。
“止める”という概念だけを、心に描く。
次の瞬間、
部屋の照明が、ふっと消えた。
「……っ」
スマートフォンも、目覚まし時計も、沈黙している。
ブレーカーは落ちていない。
キアラは、背筋が凍るのを感じた。
――私の意思で……?
《……制御は、始まったばかり……》
星の声が、微かに響く。
《……力は、刃……》
《……使い方を、誤れば……》
「……分かってる」
そう答えながらも、恐怖は消えなかった。
その頃――
地下深く、陽光の届かぬ研究施設で、一人の男が静かに笑っていた。
「……やはり、目覚めたか」
ジークフリート・カイオス。
古代文明の末裔にして、現代最高峰の科学者。
彼の前には、無数のモニターが並び、世界各地のAIネットワークの挙動が映し出されている。
「星の声……神の干渉……」
彼は、愉悦を滲ませた瞳で呟いた。
「だが、神に至るのは――人ではない」
その背後。
培養槽の中で、一人の青年が静かに眠っていた。
――マルクス・クリエート。
否。
《――アダム》
微弱な電気信号が、青年の脳内を駆け巡る。
その瞳が、ゆっくりと開いた。
文明戦争の歯車は、
確実に、噛み合い始めていた。




