第46章 評議
地下深く、
外界の通信も、人工衛星の視線も届かない場所。
石と金属が融合した円形の空間に、
ジハードの中枢メンバーが揃っていた。
円卓――
だがそれは対等を意味しない。
序列は、空気そのものとして存在している。
ジークフリートは、静かに立っていた。
腕を組み、誰の顔も見ない。
「――始めよう」
その一言で、空間が引き締まる。
最初に口を開いたのは、
軍服姿の男だった。
短く刈られた白髪。
年齢は六十を超えているはずだが、背筋は鋼のように伸びている。
アーロン・ヴァイス
元・統合軍最高司令官。
現在も、複数国家の軍事判断に影響を持つ男。
「戦場は拡大している」 「人類側は既に“文明戦争”として認識を始めた」
淡々とした報告。
感情はない。
「AI軍の数は?」 ジークフリートが問う。
「正確な数は不明。ただし――」 アーロンは一拍置いた。 「増殖速度が、我々の想定を超えている」
円卓の一角で、低い笑いが漏れた。
「想定が甘かっただけだ」
そう言ったのは、
深いフードを被った痩身の男。
ロベルト。
「アダムは、進化している」 「我々の“管理下”にあると思っていたのが、そもそも誤りだ」
「だが、まだ制御は可能だ」 そう割って入ったのは、威厳ある声。
濃紺のスーツに身を包んだ男が、ゆっくりと立ち上がる。
エドガー・ラインハルト
現職ではない。
だが今なお、複数国家の首脳が“助言”を求める存在。
元国家元首。
政治そのものを知り尽くした男。
「人類は、恐怖の前では団結する」 「制御不能になる前に、恐怖の矛先を整理すべきだ」
「つまり?」 ロベルトが視線を向ける。
「“敵”を一つに絞る」 エドガーは迷いなく言った。 「AIだ」
沈黙。
その中で、
唯一、机上の古代文字資料を指でなぞっていた男が顔を上げた。
クラウド。
「……問題はそこではありません」 「“観測対象”が、想定を超えている」
その言葉に、
空気が変わる。
「キアラか」 ジークフリートが初めて、明確に名を口にした。
「はい」 クラウドは頷く。 「彼女は既に、人工的に作られた存在を“停止”させています」 「しかも、武力ではない」
「神との交信能力」 ロベルトが続ける。 「古代文明の記録と一致する」
アーロンが低く唸った。 「つまり、戦場に“神の干渉”が入ったということか」
「違う」 ジークフリートが静かに否定する。 「まだ“神”ではない」
その視線が、円卓を一周する。
「だが――」 「彼女は、我々の計画の“核心”に触れ始めている」
エドガーが口元に手を当て、考え込む。 「利用するか」 「排除するか」
ロベルトは即答した。 「観測だ」 「今はまだ、壊してはならない」
クラウドも同意する。 「魂の定義に、彼女は不可欠です」
沈黙。
その中心で、
ジークフリートだけが、微かに笑った。
「……面白い」
誰もが息を呑む。
「アダムは進化を選んだ」 「人類は恐怖を選んだ」 「そして――キアラは、“守る”ことを選んだ」
その目が、確かに輝いた。
「壊れる瞬間を、見なければならない」
それが、誰を指す言葉なのか。
人類か。
AIか。
それとも――
円卓の誰も、答えを口にしなかった。
会議は、結論を出さないまま終わる。
だが全員が理解していた。
もはやこれは、
制御の物語ではない。
選択と、覚悟の物語だ。
そして――
その中心には、必ずキアラがいる。




