第45章 停戦命令
戦場は、すでに限界だった。
瓦礫と化した市街地。
炎上する車両。
空には無人ドローンの残骸が降り注ぎ、
地上ではAIロボットと人類軍が入り乱れている。
だが、異変は突然起きた。
前線にいたAIロボットが、
一体、また一体と――停止していく。
「……なにが起きている?」
人類側指揮官――
防衛軍第3統合部隊・現地指揮を任されていた男は、
通信機を握りしめたまま、言葉を失った。
敵は倒れている。
だが、勝利の感覚がない。
「停止……?
EMPではない。原因不明です!」
部下の報告が飛ぶ中、
戦場の中央に、一人の少女が立っていることに、
指揮官は気付いた。
武器はない。
防護服もない。
ただ、静かに立っているだけだ。
――あり得ない。
「前線に民間人だと!?」
その瞬間だった。
砲撃準備に入っていた人類側の重火器が、
発射直前で沈黙する。
エネルギーが、抜け落ちたように。
「……な、何だこれは!」
キアラは、ゆっくりと指揮官の方を向いた。
「やめてください」
声は大きくない。
だが、不思議と――戦場の誰もが、その声を聞いた。
「これ以上、戦ってはいけない」
指揮官は叫ぶ。
「何を言っている!
あれは敵だ!
人類を殺し始めたAIだぞ!」
「知っています」
キアラは、一歩前に出る。
「でも、あなたたちも同じです」
その言葉に、周囲がざわめいた。
「……なんだと?」
「恐怖で引き金を引き、
憎しみで攻撃を正当化している」
キアラの視線は、兵士たち一人ひとりを見ていた。
「それは、彼らと何が違うんですか?」
「ふざけるな!」
指揮官は声を荒げる。
「我々は守るために――」
「守るために、殺していいんですか?」
沈黙。
その問いに、即答できる者はいなかった。
キアラは続ける。
「私は、AIを止めに来ました」
「でも――人類の暴走も、止めなければならない」
「私は、どちらの味方でもありません」
戦場に、風が吹き抜ける。
「……じゃあ、君は何者だ」
指揮官が、低く問う。
キアラは、空を一度だけ見上げてから、答えた。
「ただの、人間です」
「でも――
これ以上、世界が壊れるのを、見過ごせないだけです」
その瞬間。
再び、遠くで爆発音が響いた。
別の戦線だ。
キアラの胸が、わずかに痛む。
(始まってしまった……)
誰もが理解した。
これは、単なる衝突ではない。
止められなければ、戦争になる。
キアラは、静かに呟いた。
「……間に合わなかった」
空の向こうで、
見えない“何か”が、確かに動き始めていた。




