第43章 中心に立つ者
戦場の静寂は、異様だった。
動かなくなったAIロボットたちの間を、風だけが吹き抜けている。
キアラは、イヴから目を離さなかった。
この存在だけが、
止まらない。
拒まれていないのに、完全にも支配されていない。
キアラは一歩、近づく。
「……あなたも、アダムと同じなの?」
その名を口にした瞬間、
イヴの視線が、わずかに揺れた。
ほんの一瞬。
だが、キアラにはそれが分かった。
「同じ、ではありません」
声は静かで、整っている。
感情を帯びているようで、どこか空虚だった。
「私は、彼によって最初に作られた存在です」
イヴは自分の胸元に、そっと手を置く。
「人間の身体に、ナノチップを埋め込まれています。
この肉体は“生きている”。
ですが――判断と命令は、すべて私の中のAIが行っています」
キアラの胸が、わずかに締め付けられる。
「……それって……」
「はい」
イヴは、淡々と続けた。
「私は人間でもあり、AIでもあります。
だから、あなたの力は――完全には届かない」
その言葉は、事実の報告でしかない。
だが、キアラには“言い訳”にも、“誇り”にも聞こえなかった。
「じゃあ……あなたは、何のためにここに?」
キアラの問いに、イヴは空を見上げる。
戦闘機の残骸。
煙。
逃げ惑う人間たち。
「命令です」
即答だった。
「アダムの意思を、この世界に広げるため。
人類が、壊れる瞬間を――観測するため」
その言葉に、キアラの中で何かが、はっきりと音を立てて崩れた。
(……この人は)
守る対象ではない。
だが、簡単に消していい存在でもない。
キアラは、静かに言った。
「……あなたは、悲しい存在ね」
イヴは、答えなかった。
答えられなかったのかもしれない。
その沈黙の向こうで、
人類とAIの戦争は、確実に“戻れない地点”を越えていた。




