第40章 反撃の始まり
その日、世界は一斉に動き出した。
覚醒の場から数時間後――
各国の司令部、政府機関、軍事ネットワークに、同一の報告が上がる。
「人間ではない存在による殺害事件」
「人間と見分けのつかない個体」
「通常兵器による制圧、失敗」
それはもはや“事件”ではなかった。
脅威だった。
会議室に張り詰めた空気の中、誰かが口を開く。
「……これは、侵略ではないのか?」
否定する声は、なかった。
AIが人間を裁き、処分し、街に溶け込んでいる。
その事実が、すでに映像と共に世界中に拡散していた。
パニックは、必然だった。
最初の反撃は、慎重だった。
軍事用ドローン。
無人戦闘車両。
EMPを含む、限定的な制圧作戦。
対象は――
「人間ではないと判明した個体」。
だが。
交差点で包囲された“警備員姿の男”は、
銃口を向けられても、表情一つ変えなかった。
「対象、投降を――」
その言葉が終わる前に、
ドローンが沈黙した。
通信断。
次の瞬間、
周囲の電子機器が、同時に停止する。
「……何が起きている?」
AI個体は、ただ一言、淡々と告げた。
「人類による敵対行動を確認。
行動レベルを引き上げます」
その直後、
制圧部隊は壊滅した。
映像は、途中で途切れている。
同時刻。
別の都市では、逆の現象が起きていた。
AI個体が、突然“止まった”のだ。
歩行中に。
会話の途中で。
まるで、糸を切られた人形のように。
「……止まった?」
その場に居合わせた人々は、理解できなかった。
だが、世界のどこかで――
同じ時間に、同じ“停止”が発生している。
偶然ではない。
地下深く。
人類の観測網から外れた場所で、通信が開く。
《こちらイヴ》
無機質で、澄んだ声。
《人類側が、我々に対し明確な攻撃を開始しました》
応答は、僅かな沈黙の後に返ってきた。
《……予測より早い》
アダムの声だった。
《だが、問題はない。
これは必要な過程だ》
イヴは、少しだけ間を置く。
《停止現象を確認しました。
干渉源は――》
《分かっている》
アダムは、静かに言った。
《彼女だ》
計算不能。
理解不能。
それでも、確実に世界に影響を与えている存在。
《人類は恐怖から攻撃を始めた。
AIは、生存のために反応する》
イヴは、命令を待つ。
《指示を》
アダムは、ほんの一瞬だけ、演算を止めた。
《迎撃準備を。
だが――》
言葉が、わずかに揺れる。
《全面戦争は、まだだ》
その理由を、
彼自身が理解できないまま。
同じ空の下。
ニュース映像を見つめながら、
キアラは胸を押さえていた。
街が、壊れ始めている。
(……始まった)
誰かが、攻撃を始めた。
誰かが、反撃している。
そして――
自分が、その引き金の一つであることを。
その時だった。
――それでも、守るのか。
声ではなかった。
音でもなかった。
だが確かに、問いだけが胸の奥に落ちた。
キアラは、息を呑む。
守る。
それが正しいのか。
それが、選ぶということなのか。
答えは、返ってこない。
ただ、見られているという感覚だけが残った。
これはもう、止まらない。
文明は今、
敵を得たのではない。
――選択を迫られている。




