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星の声を継ぐ者〜文明戦争の夜明け〜  作者: ムーンキャット


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第四章 星の声

それからの日々、キアラの世界は、静かに、しかし確実に変質していった。

マルクスの姿が消えてから、時間の感覚は曖昧になり、昼と夜の境目すら溶けていく。

仕事中も、移動中も、眠りに落ちる直前でさえ、胸の奥に残る喪失感が、消えることはなかった。

だが――

それ以上に、彼女を戸惑わせたのは、“声”だった。

《……キアラ……》

最初は、幻聴だと思った。

深い悲しみが脳を疲弊させ、記憶の残滓が音となって現れているだけだと。

だが、声は繰り返し、夜毎、彼女の意識の底を叩いた。

《……聞こえるか……》

それは、マルクスの声ではなかった。

もっと深く、もっと遠く、

まるで星空そのものが語りかけてくるかのような――

不思議な響きだった。

キアラは、夜になると自然と窓辺に立ち、星を見上げるようになった。

凍えるような冷気の中、街の灯りにかき消されそうな星々を、ただ黙って見つめる。

「……誰なの……」

返事は、ない。

だが、その沈黙の奥に、確かな“意志”の存在を、彼女は感じ取っていた。

数日後。

その異変は、さらに明確な形となって現れる。

通勤途中、駅構内で突然、強烈な耳鳴りに襲われた。

視界が揺れ、世界が一瞬、引き伸ばされたように歪む。

次の瞬間、

ホームに滑り込んできた電車が、急停止した。

キアラの足元から、火花が散る。

電力供給が遮断されたのだ。

「え……?」

騒然とする構内。

だが、キアラの意識は、そこにはなかった。

《……今だ……》

誰かが、そう告げた。

《……止めろ……》

キアラは、半ば反射的に、ホーム中央へと踏み出していた。

意識の奥底から、熱を帯びた何かが溢れ出す。

次の瞬間、

周囲の電子掲示板、改札、照明、通信端末――

あらゆる電子機器が、一斉に沈黙した。

完全な、静寂。

人々のざわめきすら、遠く感じられる。

キアラは、膝から崩れ落ちた。

「……なに、今の……」

息が、苦しい。

心臓が、壊れそうなほど強く打ち鳴らされている。

だが、その奥で、確かな感覚が芽生えていた。

――私は、電気の流れを……止めた?

信じがたい事実。

しかし、目の前の光景は、それを否定しなかった。

その夜。

キアラは、夢とも現実ともつかぬ世界へと、引き込まれる。

無数の星々。

終わりの見えない銀河の奔流。

そして、その中心に、

巨大な“意識の海”が広がっていた。

《……ここは、境界……》

声は、はっきりと響いた。

《……我らは、星の声……》

「……あなたは、誰?」

《……名は、持たぬ……》

《……数えきれぬ魂の集合……》

《……記憶と知識の総体……》

キアラは、言葉を失った。

「……神、なの……?」

《……定義による……》

《……だが、人は、そう呼ぶ……》

圧倒的な存在感。

だが、そこには威圧も、傲慢もなかった。

あるのは、限りない観測と、沈黙の慈悲。

《……人類は、再び、禁忌へと手を伸ばした……》

《……魂の領域へ……》

《……故に、お前を、選んだ……》

「……私を?」

《……干渉者として……》

《……繋ぐ者として……》

無数の光が、キアラの周囲を巡る。

星々のざわめきが、意識へと流れ込む。

《……星の声干渉能力……》

《……電磁の流れを遮断し……》

《……意識の連結を断つ力……》

その言葉と共に、彼女の中で、何かが完全に目覚めた。

《……やがて、文明は、戦場と化す……》

《……人と、知性が、争う……》

「……止められるの……?」

《……それは……お前の選択……》

次の瞬間、

キアラは、激しく息を吸い込み、ベッドの上で跳ね起きた。

額は汗で濡れ、胸は激しく上下している。

窓の外には、いつもと変わらぬ夜空。

だが、彼女には分かっていた。

世界は、もう、

後戻りできない場所へと、

足を踏み入れてしまったのだと。

そして――

その中心に、自分が立たされていることを。

星は、沈黙のまま、

文明戦争の幕開けを、

静かに待っていた。


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