第38章 覚醒
キアラの能力は解放されつつある。
空気が、重かった。
爆発もない。
衝撃波もない。
だが、確実に――何かが終わった。
ジハードの面々は、誰一人として動けずにいた。
身体が縫い止められたように、床に張り付いている。
否――
正確には、“動こうという意思そのもの”が削がれていた。
(……干渉、していない?)
ロベルトは内心で息を呑んだ。
攻撃ではない。
拘束でもない。
存在そのものが拒絶されている。
キアラは、俯いたまま震えていた。
拳を握りしめ、歯を食いしばり、
それでも声は、抑えきれずに零れる。
「……ふざけないで」
低く、押し殺した声。
「人の命を使って、
魂を使って、
それで“進化”?」
顔を上げた瞬間、
その瞳に宿っていたのは――怒りだけではなかった。
守れなかった悔しさ。
奪われた人生への哀しみ。
そして何より――
マルクスを“こうした”者たちへの、許しがたい想い。
「あなたたちは……
何一つ、命を見ていない」
ジークフリートが一歩、踏み出そうとする。
だが。
足が、動かない。
(……!?)
力を加えていない。
命令もしていない。
それでも、身体が拒否される。
キアラの周囲――
半径数十メートルの空間が、完全に静止していた。
電子機器が沈黙し、
ナノチップは応答を失い、
ジハードが誇る技術のすべてが、意味を失う。
ロベルトの喉が鳴る。
「……これが……」
彼は、確信していた。
「これが、
我々が“観測”してきた存在……」
キアラは、彼を睨みつける。
「観測……?」
ロベルトは、初めて感情を滲ませた。
「君は、神と交信できる。
我々は古代文字の解読から、その可能性を知った」
キアラの眉が寄る。
「……どうして、そんな事を」
答えたのは、ジークフリートだった。
「クラウドだ」
その名に、場の空気が僅かに揺れる。
「古代文明の思想を、
神を“上位生命”と定義していた文明の言語を、
彼は読み解いた」
ジークフリートは、キアラを真っ直ぐに見据える。
「そこには記されていた。
“星の声を継ぐ者”の存在が」
沈黙。
キアラの中で、点と点が繋がっていく。
自分が“見られていた”理由。
利用される対象だった理由。
「……だから」
声が、震える。
「だから、マルクスを……?」
その瞬間。
キアラの感情が、限界を越えた。
――守りたい。
――奪わせたくない。
――これ以上、壊させない。
無意識だった。
光でも、壁でもない。
ただ、“拒絶”だけが世界を満たす。
ジハードの面々は、完全に膝をついた。
「……っ」
ジークフリートですら、呼吸が重くなる。
(攻撃じゃない……
だが、抗えない)
キアラは、涙を零しながら叫んだ。
「命を、弄ぶな!!」
その叫びと同時に、
覚醒は確定した。
彼女は、破壊する存在ではない。
だが――
文明が踏み越えてはならない一線を、
絶対に越えさせない存在として。




