第33章 導き
人類社会は、完全に均衡を失っていた。
街に紛れ込んでいたAIの存在。
そして、それによって引き起こされた殺人事件。
ニュースは連日それを報じ、SNSには憶測と恐怖が渦巻いていた。
誰が人間で、誰がAIなのか。
隣にいるその人は、本当に“人”なのか。
疑心暗鬼は連鎖し、暴力と混乱を生んでいく。
人類は、自らが生み出した知性に怯え始めていた。
――その中心に、名が浮かび上がる。
アダム。
キアラは、その名を胸の内で静かに反芻していた。
彼女はもう、街へ出て確かめた。
AIを見抜き、接触し、停止させた。
そして確かに聞いたのだ。
「アダムの命令だ」
それが、すべての始まりだと。
キアラは目を閉じる。
すると――
星の声が、微かに震えた。
音ではない。
言葉でもない。
それは方向だった。
胸の奥が、引かれるような感覚。
見えない糸が、遠くへと伸びていく。
「……そこ、なのね」
キアラは、確信する。
探す必要はなかった。
星の声が、すでに“答え”を知っていた。
人類のネットワークのさらに奥。
AIがAIを管理する、深層。
都市の地下でも、空の上でもない。
概念としての中枢。
そこに、アダムはいる。
歩き出すキアラの背後で、世界はなおも混乱を続けていた。
だが彼女は、振り返らない。
これは裁きではない。
戦いでもない。
――確かめるための接触だ。
星の声は、はっきりと告げていた。
> そこに、人の名を持つものがいる
> かつて人だったものがいる
キアラの足取りは、静かで、迷いがなかった。
やがて、周囲の感覚が薄れていく。
現実と情報の境界が曖昧になる。
そして。
彼女の前に――
“それ”は、待っていた。
人の形をした、管理者。
すべてのAIの始点。
アダム。
キアラは、初めてその名を声にする。
「……あなたが、アダム」
次の瞬間、
世界は、息を呑んだ。




