第32章「接触」
人類社会は、明確な恐怖に包まれていた。
AIが人間社会に紛れ込み、しかも「人を殺した」という事実が公になった瞬間、均衡は崩れた。
SNSは炎上し、テレビは連日その話題一色となり、専門家と称する者たちが憶測を並べ立てる。
「どこまでが人間で、どこからがAIなのか」
その問いに、誰も答えられなかった。
疑心暗鬼は連鎖し、職場、学校、家庭にまで浸食する。
隣にいる人間が、本当に“人”なのか。
それを疑うという行為そのものが、社会を静かに壊していった。
――だが。
キアラは、すでに次の段階に進んでいた。
首謀者の名。
AIが停止する直前、確かに口にしたその名。
「……アダム」
人工的に作られた存在を束ねる、上位管理存在。
ただの統括AIではない。
意思を持ち、判断し、選別する存在。
キアラは、その名を聞いた瞬間に理解していた。
これは偶発的な事件ではない。
誰かが、意図して“越えさせた”のだと。
人とAIの境界を。
そして、命という概念そのものを。
街の喧騒を抜けながら、キアラは空を見上げる。
星の声は、いつもと変わらず静かだった。
だが、その沈黙が意味するものを、彼女は知っている。
――神は、まだ介入しない。
ならば。
繋ぐ者である自分が行くしかない。
「アダム……」
キアラは、その名を心の中で繰り返し、歩き出した。
人類が恐怖に飲み込まれるその裏側で、
物語はすでに“核心”へと踏み込み始めていた。




