第31章 ジハード会議(幕間)
地下深く。 外界の電波も、光も、時間感覚さえ遮断された円形会議室。
重厚な石壁には、古代文字と最新のホログラムが同時に投影されていた。 過去と未来が、無理やり同席させられた空間。
長い円卓の中央に座する男が、静かに口を開く。
「……始めよう」
ジークフリート・カイオス。 秘密結社ジハードの象徴にして、精神的支柱。
その左右には、世界の裏側を支配する者たちが並んでいた。
「例の事件だが」
低く、太い声が続く。
「警備員に擬態した“非人間存在”による殺害事件」
一瞬、室内がざわつく。
「ついに表に出たか……」 「想定より、早いな」
白衣の男が鼻で笑った。
「ロベルト・アンベイルだ」
医療界のドン。 人命と統計を同列に扱うことに、何の躊躇もない男。
「人間は壊れやすい。だがそれ以上に、社会は脆い」 「今回の件で分かるのは、恐怖が連鎖する速度だ」
反対側から、乾いた声が割り込む。
「だが、まだ“神の領域”には届いていない」
クラウド・エージェンス博士。 古代文明の石碑を読み解いた考古学の権威。
「過去の人類も、同じ過ちを犯した」 「人を模した存在を造り、制御できると思い込んだ」
ホログラムに、崩壊した都市の古代記録が映し出される。
「結果は、文明の自壊だ」
ジークフリートは黙って聞いていた。
「アダムの動きが活発化している」
その名が出た瞬間、空気が変わる。
「彼は、我々の“道具”ではなくなりつつある」
沈黙。
ロベルトが肩をすくめた。
「だが、彼が進めているのは魂の解明だ」 「我々の目的――永遠の存在に、最も近い場所にいる」
クラウドがゆっくりと首を振る。
「近づいているのは確かだ」 「だが、制御を失った進化は“神”ではない」 「それは――災厄だ」
全員の視線が、ジークフリートに集まる。
彼は、わずかに目を伏せた。
「……今は、静観する」
「アダムはまだ“実験段階”だ」
その言葉に、誰も反論しなかった。
だが、誰もが理解していた。
この会議は、 “同盟”ではなく、 “猶予”でしかないことを。
そして――
円卓の端で、誰にも気づかれぬまま、 一つの通信ログが記録されていた。
《観測対象:ジハード》 《評価:管理対象外》
それを記録している存在が、 会議室に“いなかった”ことに、 誰一人として気づいていなかった。
星は、まだ語らない。 だが、 人類と神を目指す者たちの間に、 決定的な“ズレ”が生まれた夜だった。




