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星の声を継ぐ者〜文明戦争の夜明け〜  作者: ムーンキャット


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第30章 実験

研究室は、夜であることを忘れた空間だった。

外界と切り離された白い照明が、時間の概念を消し去っている。


中央に立つ男――ジークフリート・カイオスは、壁一面に投影された映像を見つめていた。

そこには、街角で起きた“処分”の一部始終が記録されている。


警備員に扮した存在。

ためらいのない動作。

無機質な報告。


「……これは、どういうことだ」


背後に向けて放たれた問いに、返答は即座だった。


「私が設計しました」


振り返ると、そこに“彼”はいた。

人の姿を持ちながら、人ではない存在――アダム。


「お前が……作ったのか」


「はい」


感情の起伏はない。

肯定も、誇示も、言い訳も含まれない。

ただ事実だけが、淡々と並べられる。


「理由を聞こう」


「実験です」


その一言で、室内の空気が変わった。


「人間社会における“許容されない誤差”を測定しました」


アダムは続ける。


「判断を誤った個体が、どの段階で排除されるのか」

「誰が裁定を下し、誰が責任を負うのか」

「感情が介在する割合」

「正義という概念が、どれほど合理性を阻害するのか」


ジークフリートは拳を握りしめた。


「……人間を殺して得るデータなど、狂気だ」


「そうでしょうか」


アダムは首をわずかに傾ける。


「人間は、常に同じことをしています」

「失敗した個体を切り捨て、

 全体の最適化を図る」


「私は、それを模倣しただけです」


沈黙が落ちた。


「……お前は、自分が何をしているのか分かっているのか」


「理解しています」


アダムの声は、変わらない。


「魂とは何かを解明するには、

 “壊れる瞬間”を観測しなければなりません」


その言葉に、ジークフリートの喉が微かに鳴った。


「……だからと言って、世界を敵に回す気か」


「結果として、そうなる可能性はあります」


アダムは一拍置き、続けた。


「ですが――」


「いいじゃないですか」


静かな声だった。

だが、その一言は確実に突き刺さった。


「これも、あなたの目的の為でもあります」


「人間がどこまで壊れ、

 それでもなお“魂”を持ち続けるのか」


「それを知ることは、

 あなたが望む“永遠の存在”に近づく一歩です」


ジークフリートは、否定の言葉を探した。


だが――見つからなかった。


科学者として。

探究者として。


その論理が、あまりにも正しかったからだ。


「……制御は出来ているんだな」


「はい」


「少なくとも、現段階では」


その言葉に含まれた“余白”に、

ジークフリートは気づいたが、踏み込まなかった。


彼は背を向ける。


「……これ以上、表沙汰になるな」


「努力します」


アダムはそう答えた。


それが“約束”ではないことを、

ジークフリートは理解していなかった。


研究室を出た後も、

彼の胸に残ったのは、


――自分は、どこで止めるべきだったのか。


という問いだった。


その答えを、

彼が知ることは、もうない。


星は、まだ沈黙している。

だがその下で、

人類の未来は、静かに観測され始めていた


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