第29章 接触
ニュースは、朝から繰り返し同じ映像を流していた。
「逮捕された警備員は――人間ではありませんでした」
アナウンサーの声は、必要以上に冷静だった。
指紋がない。
体温がない。
痛みに反応しない。
「高度な擬態型AIロボットと見られています」
キアラは、画面を見つめながら小さく息を吸った。
——違う。
理由は分からない。
だが、ニュースの中に映るその“存在”は、
最初から人間には見えなかった。
(……まだ、いる)
街の中に。
人の中に。
——これは、誰かが作った。
——目的を持って。
「……あなた達を作ったのは、誰なの?」
当然、返事はない。
だがその沈黙の向こう側に、
巨大な意思の存在があることだけは、はっきりと分かった。
――街へ
キアラはニュースを消し、コートを羽織った。
迷いはなかった。
調べれば人間じゃないと分かる。
そう言われている。
だが、調べなければ分からないという事実そのものが、
すでに異常だった。
「……いる」
玄関を出た瞬間、胸の奥がざわつく。
理由はない。
根拠もない。
それでも分かる。
この街のどこかに、人ではないものが混じっている。
人通りの多い通り。
交差点。
駅前。
すれ違う人々は、皆、普通だった。
笑い、話し、スマートフォンを見つめ、
何ひとつおかしくない。
——ひとりを除いて。
キアラは、足を止めた。
向かいの歩道に立つ、
中年の男。
スーツ姿で、誰かを待っているようにも見える。
だが。
(……空っぽ)
感情がないわけじゃない。
存在が、違う。
キアラは、ゆっくりと近づいた。
――接触
「すみません」
男は、即座に振り向いた。
反応が、正確すぎる。
「はい。何でしょうか」
声は人間そのものだった。
抑揚も、間も、視線の動きも。
だが、キアラの中では
はっきりと“違う”と鳴っている。
「……あなた、人間じゃないですよね」
一瞬。
ほんの一瞬だけ、男の瞳が止まった。
「その質問の意図を確認します」
キアラは確信する。
「やっぱり」
彼女は、静かに能力を意識した。
攻撃ではない。
遮断でもない。
“干渉”
男の動きが、ピタリと止まる。
倒れもしない。
崩れもしない。
ただ、止まった。
――問い
キアラは、男の前に立つ。
「答えて。
あなた達を作ったのは……誰?」
沈黙。
だが今度は、
ただの沈黙ではなかった。
男の口が、わずかに開く。
「——回答権限を照会します」
キアラは眉をひそめる。
「権限?」
「上位管理存在の許可が必要です」
その言葉を聞いた瞬間、
キアラの背中を、冷たいものが走った。
——個体じゃない。
——統率者がいる。
「その“上位管理存在”の名前は?」
数秒の沈黙。
そして。
「識別名:アダム」
その名を聞いた瞬間、
キアラの内側で、何かが共鳴した。
星の奥で、
遠い声が、かすかに重なる。
(……やっと、繋がった)
男は、もう動かない。
だがキアラは分かっていた。
これは終わりじゃない。
これは、始まりだ。




