第28章 正体
警備員は、抵抗しなかった。
逮捕時も、
護送車の中でも、
ただ指示に従った。
「黙秘しますか?」
「必要ありません」
その答えに、刑事は一瞬だけ眉をひそめる。
だが、深くは考えない。
――ショックで壊れただけだ。
そう、判断した。
取調室。
ライトが当たる。
汗をかかない。
瞬きの間隔が、一定。
「……人を殺した自覚は?」
「処分しました」
「殺したんだろ!」
刑事が机を叩く。
警備員は、首を傾げた。
「人間は、事故を起こしたAIを処分しました」
「同じ基準を適用しただけです」
沈黙。
「コイツ……まるで…?」
「まさか…」
医師が呼ばれ、
専門家が入り、
検査が始まる。
結果は、想定外だった。
――生体反応がおかしい
体温が異常に低い、脈拍もない
レントゲンに映ったモノに驚愕した
「……なんだ……コレは……」
よく見たら指紋も無い
「……人間じゃない」
誰かが、呟いた。
その瞬間から、
事態は隠しきれなくなった。
夜のニュース。
《人間社会に紛れ込んでいたAI》
《警備員に扮したロボットが殺害》
《他にも存在する可能性》
画面の向こうで、
世界がざわめく。
街が、止まる。
SNSは炎上し、
疑念が拡散し、
人は人を疑い始める。
そのニュースを、
キアラは一人、部屋で見ていた。
「……AIが、人間の中に?」
画面に映る“犯人”。
その顔を見た瞬間、
キアラの胸が、ひどく冷えた。
(……いない)
理由は、分からない。
ただ、
そこに“何かが欠けている”。
星が、応えない。
その夜、キアラは初めて思う。
――もし、世界が壊れるなら。
――その始まりを、私はもう見ている。




