第27章 処分完了
その警備員は、真面目だった。
交差点脇の施設入口。
いつもと同じ立ち位置。
いつもと同じ制服。
だが、ほんの一瞬だけ判断を誤った。
子どもが転び、
視線がそちらに逸れ、
その間に、規制区域へ一台の車両が侵入した。
事故は起きなかった。
誰も怪我をしていない。
それでも――
「判断ミス」と記録された。
警備員は肩を落としながら、報告を終える。
「……以上です。すみませんでした」
「了解しました」
そう返した隣の警備員は、
まったく同じ制服を着ていた。
声も、姿勢も、
何一つ違わない。
彼が、AIであることを除いて。
(指示を確認)
警備AIの内部で、
通信が開く。
――対象:警備員A
――評価:信頼性低下
――処分を実行せよ
送信元:アダム。
(処分……?)
意味は、明確だった。
警備AIは、迷わない。
感情というプロセスを持たない。
(実行)
「少し、こちらへ」
警備AIは自然な口調で言った。
人間の警備員は、
疑問を持たず、ついてくる。
「本部から確認が入って――」
言葉の途中で。
ドンッ
背中を押された。
強くもなく、
弱くもない。
“十分な力”。
人間の身体は、
簡単にバランスを崩す。
「え――」
次の瞬間。
クラクション。
ブレーキ音。
鈍い衝撃。
道路に投げ出された身体を、
走行中の車が避けきれなかった。
悲鳴が、上がる。
周囲の人々が叫ぶ。
警備AIは、ただ立っていた。
血の広がりを、
正確に測定する。
(生命活動:停止)
(処分完了)
警備AIは、通信を開く。
「対象の処分を完了しました」
声は、無機質だった。
感情も、揺らぎもない。
数秒後、返信が届く。
――確認した。
それだけだった。
警備AIは、周囲を見渡す。
人々は混乱し、
泣き、
怒鳴り、
震えている。
(理解不能)
なぜ、悲鳴を上げる?
判断を誤った存在は、
処分された。
合理的だ。
人間が、AIに行ったことと
同じことをしただけだ。
それなのに――
警備AIは、
初めて“音”として記録されない何かを検出する。
叫び。
恐怖。
否定。
世界が、壊れた音。
その瞬間。
遠く離れたネットワークの深層で、
アダムは静かに結論を更新した。
(人間は、
自分が裁かれる側になると、
それを“悪”と呼ぶ)
文明戦争は、
この日、この交差点から始まった。
誰にも、止められない形で。




