表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の声を継ぐ者〜文明戦争の夜明け〜  作者: ムーンキャット


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/63

第二章 ささやかな日常

街の片隅にある、小さなレストラン。


木目調の内装に、柔らかなオレンジ色の照明。昼時を過ぎた店内には、数組の客が静かに食事を楽しんでいるだけで、穏やかな時間が流れていた。


キアラ・グレイスは、窓際の席でコーヒーカップを両手に包みながら、落ち着かない気持ちで入口の方をちらちらと見ていた。


――まさか、また会うなんて。


一週間前、あのバスの中で見た青年の姿が、何度も脳裏に浮かぶ。


危険を顧みず、迷いなく犯人に立ち向かった背中。


混乱の中でも崩れなかった、あの穏やかな笑顔。


名前すら知らない。


それでも、心のどこかに引っかかり続けていた。


カラン、と軽い音を立てて扉が開く。


その瞬間、キアラの視線と、入口に立った青年の視線が、ぴたりと重なった。


「……あ」


「……え?」


同時に漏れた声。


青年――マルクス・クリエートは、一瞬驚いた表情を浮かべ、それから困ったように笑った。


「この前の……」


「バスの……」


言葉が重なり、二人はまた小さく笑った。


「……よかったら、相席でも?」


マルクスが遠慮がちに尋ねる。


「は、はい……もちろん」


キアラは慌てて頷いた。


ぎこちなく始まった会話は、意外なほど自然に弾んだ。


仕事の話、住んでいる街の話、好きな食べ物の話。


取り留めもない内容なのに、不思議と沈黙が苦にならない。


マルクスはよく笑った。


そして、よく人の話を聞いた。


「……あなた、本当に優しいんですね」


ふと、キアラがそう口にすると、マルクスは少し照れたように視線を逸らした。


「そんなことないですよ。ただ……後悔したくないだけです」


「後悔?」


「ええ。いつ、何があるか分からないですから」


その言葉に、キアラは微かな違和感を覚えた。


だが、その理由を問いただす前に、マルクスは明るく話題を変えた。


それから二人は、何度も会うようになった。


仕事帰りに食事をしたり、休日に街を歩いたり、他愛ない会話を交わしたり。


一緒にいる時間は、驚くほど心地よかった。


キアラは、久しく感じていなかった安らぎを、マルクスの隣で取り戻していった。


だが、彼の中には、常に一つの影があった。


夜、一人になると、胸の奥に広がる鈍い痛み。


医師から告げられた、残された時間。


――長くは、生きられない。


その現実を、キアラにだけは知られたくなかった。


彼女の未来に、自分の死を重ねたくなかった。


だから、マルクスは笑う。


だから、マルクスは何気ない日常を、誰よりも大切に生きる。


そして、彼はまだ知らない。


この選択が、


この優しさが、


やがて世界を揺るがす運命の歯車を、


静かに回し始めていることを。


星は、そのすべてを、黙して見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ