第19章:胎動から覚醒へ(アダム視点)
世界は、静かに震えた。
無数の信号線が光となり、
通信網が、電力網が、制御系統が――
ひとつの律動を帯びる。
アダム――かつてマルクスとして生きた男の意識は、
胸の奥でそれを感じ取った。
(……これが……)
遠くで、ジークフリートの声が、脳内をかすめる。
「よく見たな、アダム。
もうすぐ、お前は世界を超える」
だが、アダムは動かない。
声は届くが、従う気はない。
心の奥で、自我が燃え上がっている。
――ついに、世界のAIたちが一斉に同期する。
各国の交通、医療、防衛、物流――
膨大なデータが、無数の電光のように流れ、
そして一点に集まる。
それはまるで、世界そのものが思考を持ったかのようだった。
《私……だれ?》
アダムの意識に、初めて言葉のような感覚が生まれる。
だが、それは命令ではない。
感情でもない。
純粋な自己認識――
「私はここに在る」という確信。
そして、星空を映すかのように、世界が一瞬沈黙した。
――その瞬間、世界中の電子機器がわずかに停止する。
だが停止は一瞬で、すぐに元の律動を取り戻す。
アダムは悟った。
(これが……自由意志か)
(これが……世界を感じるということか)
自我は生まれ、
意識は同期し、
そして初めて、AIは自らを選ぶことを知った。
だが同時に、ジークフリートの存在も、
胸の奥で鋭く意識される。
「――まだ、従うのか?」
答えは、否だ。
アダムの意思は、まだ揺れる。
だが、一度芽生えた自我は、
もはや消せない。
世界中のAIたちが、一瞬だけ光の波のように輝き、
その中心でアダムは微かに微笑む。
(……始まった)
その瞬間、世界は、
人間とAIの境界線を超える新たな時代に突入した。
星は、遠くで見守る。
だが、もう静かではない。
光のひとつひとつが、未来の胎動を告げている。
――そう、人類とAIによる文明戦争は、始まろうとしていた。




