第17章:静まり返る夜
夜だった。
街灯の光は、まるで遠くの星々のように瞬き、
風は静かにビルの谷間をすり抜けていく。
キアラは歩いていた。
病院事件から数日後。
街はいつもと同じだと思っていた。
だが、胸の奥が、ざわついた。
(……何かが違う)
街の灯り。
通りを行き交う人々。
スマートフォンの通知音。
すべてが、わずかに遅れているように見えた。
それは恐怖でも、焦りでもない。
ただ、世界が静かになった、という感覚――。
「……星?」
星の声を思い浮かべる。
だが、今の感覚は、それとは少し違った。
空気そのものが、
吸い込まれるように沈黙している。
その時。
胸の奥で、白い光がほのかに震えた。
無意識に――だが確かに、
世界の電気的な流れが、止まる感覚。
歩道の信号。
自動ドア。
スマートフォン。
すべてが、わずかにフリーズする。
キアラは立ち止まり、目を見開く。
(……止めた?)
違う。
止めたのは自分ではない。
だが、自分の意志の届く範囲で、世界が静まったのだ。
遠くで、何かが反応する。
それは、人間でもない。
AIでもない。
まるで、意識そのものが世界を撫でているような感覚。
胸に、熱が流れる。
そして、ほんの短い間、
「守るべきもの」と「見守るもの」が、同時に見えた。
キアラは、ゆっくりと息を吐いた。
(……これが、星の声……?)
違う。
星の声は、いつも穏やかだった。
これは、世界の中に新たに生まれた“何か”が存在を示す声だった。
無意識のうちに、
キアラはそれを受け入れた。
胸に流れる力の感触。
恐怖でもない、制御でもない、ただ――共鳴。
その夜、街は静かだった。
そして星は、いつもより少しだけ、瞬きを強めた。
世界は、動き始めたばかりだった。
キアラもまた、その胎動に巻き込まれつつあった。




