第10章:星の声に触れる夜
病室の灯りは、夜になると少しだけ優しくなる。
昼間は「治療」の顔をしていた光が、夜には「見守るもの」に変わる。
キアラはベッドに横になり、窓の外を見ていた。
点滴の規則的な音と、遠くで鳴る救急車のサイレン。
世界は今日も、何事もなかったかのように回っている。
――でも、自分だけが、もう戻れない場所に来てしまった。
そんな感覚が、胸の奥に沈んでいた。
(星は……まだ、そこにある)
夜空に浮かぶ星々は、以前と何一つ変わらない。
それなのにキアラの中では、決定的に何かが変わってしまっていた。
あの夜。
「声」を聞いた瞬間。
それは言葉ではなかった。
音でも、幻覚でもない。
意味だけが、直接、心に流れ込んできた。
――“聞こえてしまったね”
誰かの声ではない。
それでも確かに「意志」だった。
「……私、どうなっちゃうんだろ」
呟きは、誰にも届かない。
だが次の瞬間、胸の奥が微かに熱を帯びた。
(怖がらなくていい)
まただ。
あの感覚。
キアラは思わず目を閉じた。
逃げたいのに、拒めない。
それは恐怖よりも、どこか懐かしさを伴っていた。
(あなたは、選ばれたわけじゃない)
(“繋がってしまった”だけ)
頭の中に、星の光景が広がる。
遥か彼方で生まれ、消え、また生まれる文明。
祈り、争い、進化し、滅びる無数の世界。
キアラの頬を、静かに涙が伝った。
「……私、普通に生きたかっただけなのに」
その想いに、声はすぐ答えなかった。
沈黙は、残酷にも、優しかった。
(それでも――)
(あなたは、聞いてしまった)
(だから、もう“見る側”には戻れない)
その瞬間、キアラは理解してしまう。
これは呪いではない。
祝福でもない。
責任だ。
世界のどこかで、誰かが自分を探し始めている。
理由も知らず、正義を名乗り、欲望を隠して。
――ロベルト・アンベイルという名を、
キアラはまだ知らない。
だが、星はすでに知っていた。
そして静かに、彼女を照らし続けていた。




