第7話 女神としての試験
天界に、
静かな緊張が
満ちていた。
受付所の中央に、
円形の光陣が
展開されている。
それは、
通常業務では
使われないものだった。
「……試験?」
レーシャは、
小さく呟いた。
ユーファは、
静かに
うなずく。
「正式な
女神適性確認です」
サフィーネは、
腕を組んだまま
険しい顔をしていた。
「クレアティス様の
直々の判断よ」
その名を聞き、
レーシャの背筋が
伸びる。
ほどなくして、
空間が
ゆっくりと歪んだ。
最上位女神、
クレアティスが
姿を現す。
「始めましょう」
その声は、
感情を含まず、
しかし
拒否を許さなかった。
「レーシャ」
名を呼ばれ、
彼女は一歩
前に出る。
「あなたに、
単独転生采配を
命じます」
レーシャの目が、
わずかに
揺れた。
「条件は
一つだけ」
「感情を
判断に
含めないこと」
その言葉に、
胸が
きしむ。
「……はい」
返事は、
絞り出すようだった。
光陣の中央に、
一つの魂が
現れる。
静かで、
しかし
強い光。
ユーファが、
説明する。
「転生候補魂」
「現代・異世界、
双方に
適性あり」
「生前、
重大な選択を
迫られ続けた人物です」
レーシャは、
魂を
見つめた。
見えてしまう。
迷い。
後悔。
それでも
誰かを想う心。
胸が、
痛む。
「……分析を
開始してください」
ミレイシアの
声が
促す。
レーシャは、
深呼吸を
一つ。
感情を
切り離す。
情報だけを
見る。
「精神耐久度、
中」
「環境適応力、
高」
「……異世界向き」
言葉にした瞬間、
魂が
小さく揺れた。
気づいてしまう。
異世界では、
この魂は
再び
選択を迫られる。
重い責任を
背負う未来。
だが、
現代では――
平穏だが、
挑戦の少ない
人生。
「……」
レーシャの指が、
止まった。
サフィーネが、
低く言う。
「悩むな」
レーシャは、
歯を
食いしばる。
感情を
入れない。
それが
試験。
「異世界転生」
言い切った。
「制限補正、
標準」
魂は、
光を
強める。
そのとき。
「……待って」
レーシャの
声が
震えた。
サフィーネが、
目を
見開く。
「レーシャ!」
だが、
クレアティスは
止めなかった。
「続けなさい」
レーシャは、
拳を
強く握る。
「判断は
変えません」
「でも……」
一拍、
間を置く。
「最低限の
精神安定補正を
追加します」
ミレイシアが、
即座に
確認する。
「理由は?」
レーシャは、
真っ直ぐ
答えた。
「規定内です」
「魂の
破綻確率を
下げるため」
沈黙。
数秒が、
永遠のように
流れる。
クレアティスは、
やがて
小さく
うなずいた。
「処理、
完了」
魂は、
ゲートへと
導かれる。
消える直前、
レーシャを
見た。
感謝でも、
後悔でもない。
理解の
光。
光が
消える。
試験は、
終わった。
レーシャは、
その場に
立ち尽くした。
「……どう
だったの?」
フィオネアが、
優しく
尋ねる。
クレアティスが、
結論を
告げた。
「合格でも、
不合格でも
ありません」
レーシャは、
息を
呑む。
「あなたは、
規則を
守った」
「そして、
規則の
意味を
理解しようとした」
サフィーネは、
深く
ため息をついた。
「本当に、
面倒な
女神ね……」
ユーファは、
静かに
微笑んだ。
レーシャは、
胸に
手を当てる。
まだ、
答えは
出ていない。
それでも、
進んでいる。
女神として。
天界の光は、
変わらず
そこにあった。
レーシャは、
その中で
立ち続ける。
迷いを
抱えたまま、
それでも
前を向いて。




