第6話 ユーファの本音
天界の夜は、
昼とほとんど
変わらない。
光は弱まり、
静けさが増すだけだ。
緊急流入から
半日が過ぎ、
受付所には
最低限の女神だけが
残っていた。
ユーファは、
黙々と
記録整理をしていた。
光の板を整え、
処理漏れがないか
何度も確認する。
その向かいで、
レーシャは
椅子に座ったまま、
動けずにいた。
「……すみません」
小さな声だった。
ユーファは、
顔を上げない。
「何がですか」
「今日……
足を
引っ張りました」
ユーファの指が、
一瞬止まる。
「いいえ」
短く答え、
作業を続ける。
レーシャは、
俯いた。
「でも……
判断、
遅かったです」
静かな空間に、
その声だけが
残った。
しばらくして。
ユーファは、
光の板を閉じ、
立ち上がった。
「レーシャ」
名前を呼ばれ、
レーシャは
びくりと肩を震わせる。
「こちらを
見てください」
ユーファは、
受付所の奥へ
歩き出した。
レーシャは、
慌てて
後を追う。
奥には、
天界全体を
見渡せる
観測窓があった。
無数の世界が、
光の層として
重なって見える。
「きれい……」
レーシャが、
思わず呟く。
「そうですね」
ユーファは
静かに答えた。
「でも、
この中で
毎秒、
命が終わっています」
レーシャは、
息を呑んだ。
「私は、
この仕事を
長くしています」
ユーファは、
窓の外を
見つめたまま
語り始めた。
「最初は、
あなたと
同じでした」
レーシャは、
驚いて
ユーファを見る。
「一人ひとり、
覚えようとして」
「一人ひとり、
救おうとして」
「……壊れかけました」
その言葉は、
淡々としていたが、
重かった。
「感情移入しすぎると、
判断が
できなくなる」
「判断できなければ、
もっと
多くを
失います」
レーシャの胸が、
締め付けられる。
「だから、
私は
線を引いた」
「魂は魂。
私は管理者」
「それが、
正しいと
思っていました」
ユーファは、
ゆっくりと
レーシャを見た。
「でも」
その一言で、
空気が変わった。
「あなたを
見ていて、
揺れました」
レーシャの目が、
大きく見開かれる。
「レーシャは、
危なっかしい」
「規則も
忘れる」
「ミスも
多い」
一つずつ、
突き刺さる。
「でも」
ユーファは、
小さく息を吸った。
「魂は、
あなたを
覚えています」
「感謝も、
後悔も」
「私には
届かないものが、
あなたには
届いている」
レーシャの目に、
涙が滲んだ。
「それが、
怖いんです」
ユーファの声が、
少しだけ
震えた。
「あなたが
壊れてしまわないか」
「この仕事に、
潰されて
しまわないか」
レーシャは、
しばらく
黙っていた。
やがて、
ゆっくりと
口を開く。
「……わたし」
「全部は
救えないって、
わかってます」
「でも」
拳を握りしめる。
「見てしまったら、
無視できないんです」
「それでも、
女神ですか?」
ユーファは、
少しだけ
笑った。
「ええ」
「だからこそ」
「あなたは、
ここに
いる」
二人の間に、
静かな時間が
流れた。
遠くで、
次の魂の
到着を告げる
微かな音。
「……行きましょう」
ユーファが言う。
「仕事です」
レーシャは、
涙を拭い、
立ち上がった。
「はい」
二人は、
並んで
受付所へ戻る。
完璧ではない。
でも、
それぞれのやり方で
命と向き合う。
ユーファの線と、
レーシャの想い。
その両方が、
今の天界には
必要だった。
天界の夜は、
静かに
更けていく。
レーシャは、
もう一度
誓った。
迷っても、
立ち止まらない。
この場所で、
女神として
生きるために。




