第06章 第2楽章 亜紀子 師弟を結ぶもの
文字通り釘付けだったライヴが終わり
初めて恵梨子と会話を交わすことになった吹丘亜紀子。
第6章 第2楽章 亜紀子 師弟を結ぶもの
「えっ? 引っ越しちゃうの?」
「ううん、違うよ、大学は関東方面に絞る予定だから。
亜紀は渦潮教育大学一本でしょ?」
「一応はそうだけど……数学がね、やばいのよ、
間に合うんだろうか?」
「次回のチケット買ってくれるなら、
ノート写させてあげてもいいよ」
「は、はい! よろしくです、助かるわぁ」
汐音ちゃんがライヴ会場をキョロキョロ見回している。
「あっ、恵梨子! こっち、こっち。挨拶しな、友達の亜紀だよ」
恵梨子さんはゆっくりとした歩みで、
白い杖を頼りにこっちに近づいてくる。
そういえば会場にも何人か白い杖を突いた人が。
「亜紀さん、ですよね?」
「いつも汐音がお世話になってます、吹丘亜紀子といいます」
「祇織は亜紀、って呼んでるみたいやけど、
ウチはアッコちゃんって呼んでええですか?」
若干阿波弁なまりの恵梨子さん。
「アッコちゃん……なんかくすぐったいけど、
いいですよ。私はなんとお呼びすれば?」
「アッコちゃん、同い年じょ。敬語はなしにしようや。
エッちゃん、恵梨子、エリ坊、なんでもええよ」
なんて気さくな人。外見も内面も清らかな人だ、
そう思い始めている。
「エリ坊はちょっとアレなんで、
エッちゃんって呼ばせてもらうね。
えと、エッちゃんさんは、進路とか決めてます?」
「アッコちゃん、エッちゃんさんはないでぇ。
進路……、プロのミュージシャン?
大学は全然考えとらんよ」
プロのミュージシャン……あのパフォーマンスなら
聴衆の心を掴んで離さないかも?
「私は地元の教育大学に行こうと思ってる。
またライヴ観にくるね」
「うわぁ、嬉しいでぇ。じゃあ、ガンガン新曲作らなきゃ!」
新曲、か。ちょっとエッちゃんは雲の上のような存在だな。
「ねえ汐音ちゃん、ベースって難しい?」
「うーん、それは何を演奏するかによるんじゃない?
何? 亜紀も楽器弾きたくなった?」
「うん、でもすぐに投げ出しちゃいそう。
本当に今日のライヴは最高だったから、
私も楽器が弾けたら、なんて思いがふっと浮かんできちゃった」
「じゃあ、恵梨子に習えば?
ねえ恵梨子、リードギターのようなベースライン、
亜紀に叩き込んでやってよ」
「アッコちゃん、本気で言ってるんだよね?
だったらウチは全力でサポートするじょ。
祇織は数年後には別の道を歩むんだから」
勝手な判断ではなく、もうメンバーに公言してるんだ。
バンドってそういうアンバランスの状態でも
存続できるものなんだな。
「エッちゃん師匠! 何卒、宜しく申し上げまつる」
「師匠はないでぇ。
アッコちゃん、地でそんなノリなん?」
今のは意識して固くした、でも……。
「こういう面倒くさい女だと思ってください。
徐々にタメ語で話せるように頑張るから」
「そういうのって頑張ったりするもんと
ちゃうんやと思うんやけどなぁ。
まあええわ、先は長い。
祇織はそろそろ受験モードやけん、
時々アッコちゃんにベース貸してあげれば?」
「いえいえ、いいよ、私、買うから。
でも、ブラインド・タッチみたいに
人の前で堂々と演奏したいから、
練習とか観に行っていいですか?」
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師匠:箸元恵梨子
弟子:吹丘亜紀子の師弟関係、合意。
意中の箸元先輩が暮らす箸元邸に
いざなわれるように向かうふたり。
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恵梨子の名字は、箸元で、憧れの箸元先輩の妹さん。
それは知っていた事実だが、彼女の家に遊びに行くということは
箸元先輩に逢えるかも、ということ。
よこしまだが、この出逢いはミラクルを起こす、予感がしていた。




