第03章 亜起子 チェーンソーガール
心に深く刻まれたPTSDの四文字……。
私は足首に傷を負い、心にまでダメージを受けた。
切断する迄には至らなかったが
壊死と呼ばれる寸前まで悪化。
九死に一生を得るとはこのことか。
障害演者、三人目のプレイヤーは吹丘亜紀子。
第3章 亜紀子 過去、悪夢、後遺
―おい! レスキューはまだか?
(あ、足……。痛い、痛い……痛い!)
―出動して、もう15分。間もなくだと思います。
―女の子の足が鉄柱に挟まれて動かせない。
このままだと壊死するぞ。
―どうする? 切断に踏み切るか?
(えっ、切るの? 足を?)
―レスキューはまだなんだな?
よし! 覚悟を決めよう。
麻酔投与、終わったら切断機具の準備!
キュイイイン……。
(やっ、やめっ……やめてぇぇぇ!)
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。夢……」
急いで布団を剥いでみる。両足首とも無事だ。
この類の悪夢は
1週間に1回くらいのペースで遭遇するが
毎回足首の安否を確かめずにはいられない。
あの事故は、心に、身体に、大きな傷を刻んだ。
「おはよう、亜紀。塾の宿題やってきた?」
後ろから同じ高校、同じ塾に通う
汐音祇織に声をかけられる。
「汐音ちゃん、おはよう。
私、数学がちんぷんかんぷんだった」
「教室に着いたら写させてあげるよ。
で、交換条件があるんだけど」
「うー、おごり系は今月キツいかな。
GENERAL HEADQUARTERSのALBUMと
芝倉翔のDVD買っちゃったんだよね」
「ふーん、相変わらず
私たちの音楽の趣味って合わないね。
それはいいんだけど、私、バンド組んでるって
話したことないよね?」
「えっ、うん、初耳。楽器は何を担当してるの?」
「エレキベースだよ。
亜紀の憧れ、あの箸元先輩の妹さんが
ヴォーカルやってるんだ」
心が弾む固有名詞が祇織の口から飛び出した。
「うそ? 箸元先輩、一人っ子じゃないんだ。
あの遺伝子を持っているってことは
綺麗な人っぽいなあ」
「興味持ってくれた?
今週末、駅前のスタジオでライヴするんだけど
聴きにくれたら嬉しいな」
ライヴ、楽しい予感を抱かせてくれる言葉。
「行く! 行く!
お小遣い前借りしてチケット買うから」
「今回は私が立て替えてあげる。
じゃあ、これがチケットだから」
やったあ、汐音ちゃん、最高!
ええと、バンド名は?
あ、英語。
「ブリンド……トウチ?
どうゆう由来のバンド名なの?」
「あー、それブラインドタッチって読むんだよ。
聞いたことない?」
あちゃ、思いきりローマ字読みしちゃった。
確かこれって。
「パソコン用語だよね? 響き、好きだな」
「どうしてこのネーミングにしたかは
メンバー紹介の時にでも話すから。
それより亜紀、学校行くよ!
宿題写すんでしょ?」
あ、そうそう、その交換条件だったよね。
「ありがとう、なんか私だけ
得してる気がするけどいいのかな?」
「いいの、いいの。
ああ、亜紀が聴きにくるんだ。気合い入っちゃう」
ライヴなんて人生で初体験
その日を指折りながら
大嫌いな数学や英語に埋もれる日々を
乗り越えていくのだった。




