第02章 汲子 私の中の神様
『神の指先』……
そう呼ばれてスポットライトを浴びていたあの頃
ドラムスが私の全てだった。
第2章 汲子 私の中の神様
翼を失った鳥は、現世に縛りつけられながら
生き存えなければならない。
私は鳥だ。深い、深い傷を負った。
空を見上げて、風を思い出す。
羽ばたくことは、もうできないのに。
『神の指先』……
そう呼ばれてスポットライトを浴びていたあの頃
ドラムスが私の全てだった。
ドラムスのショットは
肩部を軸にしたショルダーコントロール
肘部を軸にしたエルボーコントロール
手首を軸にしたリストコントロール
指先を軸にしたフィンガーコントロール
によって成り立っている。その中でも、私は
フィンガーコントロールのスペシャリスト。
緻密で精巧なショットは
聴衆の鼓膜と鼓動を捕えて離さなかった。
「あのドラムスは次元が一つも二つも違う。
リズムキープと粒の細かいショットは
まさに『神』の領域だな」
神だなんて大袈裟
でも私以上のプレイヤーには出会ったことないな。
「鷹嘴汲子殿、貴殿は第21回BEAT ON SPIRITのドラムス部門において最優秀奏者に表する、おめでとう!」
これからもっともっと栄光を掴み取るんだ。
ドラムスがバンドの可能性を無限に拡げてゆける気がする。
あの頃、と振り返る理由は
もう私は『神の指先』ではないのである。
一つの事故が、天才から「存在証明」を剥奪した。
浅指屈筋腱断裂後遺
これが私の両翼に刻まれた呪縛だ。
指先に全く力が入らず、簡単な例を挙げると
「じゃんけん」が困難なぐらい危篤な状態。
ただ救いだったのは、肩、肘、手首は
未だ健常であってくれること。
「グー」ができない掌にテーピングをして
スティックを構える。今の私には、神は宿っていない。
だったら降臨させればいいだけのこと。
『神の再来』、そう呼ばれる日をどこかで予感しながら
折れた翼で羽ばたく日々を今日も過ごす。
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箸元恵梨子 ELICO
鷹嘴 汲子 KUMICOM
吹丘亜紀子 ACCOBIN
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未だ点でしかない無関係の三人が
結び合って線になる時
宇宙の大気は、どんな変化を起こすだろう?




