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第19章 恵梨子 進学と神楽

第19章 恵梨子 進学と神楽

 幽香さんが東高(県立東城高等学校)を卒業した春、

私とアッコちゃんは、去年と変わらず音楽活動を、

彼女の勉強に差し支えない程度に続けていた。

 祇織は相当な思いで勉強に打ち込んでいる。

彼女にとって、徳島の小さな街から大都市へ繰り出す方法は、

大学合格しかないのだ。

そのステップに1年も2年も費やしている場合ではないのだろう。


 そんな理由で、もう数カ月以上祇織の顔を拝んでいない。

拝んで、って私は直接顔を確認できるのではないのだが。

 最近、アッコちゃんが点字に興味を持ち始めてくれている。

そんなことにエネルギーを使っている時期ではないと思うのだが、

明らかに私の為なので、陰ながら応援したい。


「なあアッコちゃん、大学生になっても

 Blind Touchでいてくれる?」


「うん? ああ、それは当然。

 大学に行くのはバンドの活動範囲を拡大する為でもあるんだから」


「ほなけんど、渦潮教育大学って先生になるための学校え?」


「うん、そうだね。教員免許は念の為取っておくけど、

 私の人生はエッちゃんと共にあるよ」

 私と共に……アッコちゃんは堅実な道より夢に比重を置くのか。

彼女と私とまだ見ぬ未来のドラムス。

3人の化学反応は、徳島から世界に向けて飛び出すことができるかな。


「アッコちゃんが大学を卒業する頃には

 フル・アルバムが作れるくらいレパートリーが増えていたらええな。

 アッコちゃんが進学なら、ウチはシンガクじょ」

 ふわふわの絨毯に、指で「神・楽」となぞる。

「エッちゃん、多分、多分だよ、それカグラって読むんだと思う。

 でもねでもね、言いたいことは伝わりました」

 あちゃ、先入観で恥ずかしい思い。


「あはは、やっちゃった。ウチ、もしギターっていう神器がなかったら、

 どんな18歳になっていたんやろ?」


「エッちゃんはエッちゃんだもん、

 きっとスケールの大きい表現者になっていたと思うよ」

 表現者、か。まあ、出鱈目だけど、

 絵画の途も志して行けそうな不確かな自信がどこかしらにあるんだよな。


「ふふ、嬉しいでぇ。いつかも話したけど、

 ウチ、今の状態から何かを失うくらいなら、

 この線も色もない世界のまんまでもええって思うとるんよ。

 でもそれは、最初からそういう境遇やったから

 言える強がりなんかも知れんね。

 ウチは「強虫」、そうなりたい。

 無理してなるもんでもないけど、アッコちゃんがそう描いてくれるなら、

 背中をピン! とせないかんなぁ、って気持ちになる」


「あ、「強虫」、もしかして負担になってる?

 でも、私は正反対の「弱虫」だから、

 エッちゃんの度胸や決断力、いつもお手本にさせてもらっているよ」

 度胸、決断力―。生きて行く上で大切な心得だと思うが、

 人様の手本となるくらい、自分に染み着いているとは。


「ウチはウチのこと、全然解ってないなぁ。

 アッコちゃんはウチの先生でぇ。科目はなんやろ? 人生学?」


「全然、全然、先生だなんて、そんな……」

 祇織は祇織でまた違った魅力があるのだが、

アッコちゃんと一緒に居ると、

この線も色もない世界に輪郭や色彩が加えられたような錯覚に

陥ることが時としてある。


「謙遜せんで、マイ・ティーチャー。

 ああ、そうだ、あれから点字の勉強は進んどるん?

 って今は数学や英語をやるべきなんやけどね」


「私なりに基礎から少しずつ、毎日30分の生涯学習だよ。

 ゆくゆくはエッちゃんの両目になって、

 Blind Touchの歌詞全部を

 指先で確認できるようにしてみせるよ」

 私の両目―、よく使われる比喩だが、

アッコちゃんは120%真剣に言ってくれているんだと思う。

今までは私が曲も詞も自分で書いていたから不自由に感じなかったが、

「蒸気」「ロープレ」「恋の砂塵」は覚えるのに

随分とアッコちゃんの骨を折らせてしまった。


「嬉しいじょ、アッコちゃん。

 これから先も、お互い知恵を出し合って、

 Blind Touchの世界観を垣根のない人々―、

 男も女も、大人も子供も、黒人も白人も、盲人も健常者も、

 みーんなひっくるめて虜にするような、

 スケールの大きな音を奏でていけたらええね」


「うんうん! 音楽に性別や国境はないんだよね。

 私、自分の持ち得るアンテナをぜーんぶ受信可能に設定して、

 これからの作品に活かせる様にしていくから」

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