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第15章 亜紀子 脱・乙女指

 恋する乙女こと吹丘亜紀子の指先はカチンコチン。

鬼教官の恵梨子考案のうねるようなベースラインに

臆することなく弾きこなせ!

第15章 亜紀子 脱・乙女指

 エッちゃんのアレンジは実にベーシスト泣かせ。

Blind Touchは

メンバーの入れ替えがあっても、

絶対にTHREE PIECE(三人編成)を

貫くので、

平たいベースライン(俗に言うルート弾き)にだけは

したくなかったとのこと。


 もう私の左手の指先はカチンコチンだ。

よく女性アスリートが割れた腹筋を

お披露目することがあるけど、

アーティスティックな指先に恥じらいと

誇りが同居している。


 今年の夏休みに汐音ちゃんの

ラスト・ステージを行うことになり、

晴れて生演奏の

「蒸気」「ロープレ」を初めて聴ける機会が

設けられた。

彼女は関東地方の大学に進学する希望があるので、

Blind Touchのベーシストという肩書を、

私に譲ってくれることになっている。

ベースの腕前はまだまだ初心者レベルだけど、

エッちゃんを中心とする

このバンドへの愛着と帰属意識は

誰にも負ける気がしない。


 そんなBlind Touch愛な私は、

バンドの発展の為に、新しい詞に着手する。

タイトルは「恋の砂塵」、エッちゃんには内緒だが、

箸元先輩に対する想いを切々と綴ったものだ。

エッちゃんとの関係が絶えない限り、

この片思いは相手の近くで継続することが

できるかも知れないが、

憧れだけで終わる恋よりも、

もっと身近で等身大な恋をする日が

訪れるのだろうか。

「砂塵」という単語を選択したのは、

激しく巻き起こる想いのイメージからだが、

「炎」よりも冷静で、繊細な感情だ。


障害は文字通り、目の前に立ちはだかる

「障害物」に他ならないのだが、

私たちはそれに臆することなく、

寧ろ肯定的に乗り越えようとする。

エッちゃんと会うのは専ら彼女の家なので、

目の不自由なエッちゃんをダイレクトに

感じるケースは少ないのだが、

きっと学校でも雑踏でも、誇らしげに

咲く花のように、

凛とした存在感を放っていることだろう。


楽しい時間は矢継ぎ早に過ぎて行き、

気付けば季節は夏になっていた。

夏休みに入り、8月上旬には、

汐音ちゃんのラスト・ギグ、形式的には

Blind Touchの

解散公演ということになっている。

 冷房がキンキンに利いた部屋で、

アンプラグド(アンプに繋がない状態)の

演奏をするエッちゃんと私。

エッちゃんが構成したギターソロみたいな

ベースラインは、

相変わらず私の左手を忙しく悩ませるけど、

私と同じラインを練習している

汐音ちゃんの最後の演奏を、

誰よりも感情移入して聴き入ることができる感動が、

ひしひしと近づいている。

それは、遠くの杉林から聴こえてくる

蝉の歌のように、

青々と伸びた稲を撫でる南から吹く

そよ風のように。


「蒸気」「ロープレ」「恋の砂塵」、

演奏はまだまだお客さんにお披露目できる

レベルじゃないが、

エッちゃんの絶妙な音感によって振り分けられた

コーラス・パートは日々の練習の甲斐あって、

彼女と美しい共鳴を呈するようになった。

勿論、汐音ちゃんも習得済みである。

 初めてBlind Touchの

ライヴを聴きに行ったあの日から、

いろいろあって随分時は流れたが、

その時間だけ私の音楽観も変化に富んだ。

汐音ちゃんが抜けたら、

私が正式なBlind Touchのメンバー。


冷房は相変わらずキンキンだったけど、

私の身体の根幹は、

たぎるような熱さを密やかに放っていた。

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