第13章 恵梨子 震える指でなぞった点字
第13章 恵梨子 震える指でなぞった点字
「恵梨子ー、お前が探しているメモってこれか?」
指先に触れるように紙切れを差し出す兄。
「ああ、あった? 点字をなぞってみんと判らんけど、
とりあえずありがと。違ってたら、また後日一緒に探してね」
私が探している紙切れ、そこにはリアルな感情がたくさん詰まっている。
2コ上の小泉先輩、先輩が卒業を迎える3月に電話で告白した。その時、気持ちが昂って、伝えたいことがぐしゃぐしゃにならないように、
内容を点字に起こしていた。
そのメモを兄の協力の下、捜索していたという訳だ。
それをしみじみとなぞって、感傷に浸りたいのではない。
私は大胆にも、そのメモを再構成して、曲を付けようと目論んでいるのだ。タイトルは前日から決めている。
「REN-AI精神」、私の燻ぶる魂が、
歪んだギターにどう調和するか? 今から完成が楽しみだ。
アッコちゃんにも内容を把握してもらって、
アドバイスをご伝授頂きたいところだが、
生憎彼女は点字の心得がない。
私たちのバンド名の由来は、元々、パソコンのキータッチからきている。
ブラインド・タッチできれば私の詞を、
口伝えではなく、文字としてメンバーに示すことができるのだが、
技術を会得する以前に、箸元家にはパーソナル・コンピュータという
文明の利器は存在しない。
まあ、アッコちゃんには後々何らかの形で内容を伝えることにしよう。
告白をすると、必ず結果が返ってくる。
小泉先輩の口から、交際することを約束する
肯定の返事を聞くことはできなかった。
私は今でも、震える指で点字をなぞったあの感触を忘れない。
メモの内容は、まだ微かに指先に残っているのだが、
私は一字一句違わない「リアル」を捉えたいと考えている。
先輩に対する想いは、告白前と告白後とでは明らかに違う。
それはただ単に気持ちが冷めたっていうことではなく、
感情のピークを既に経験しているということだ。
決してあの時感じた頂点に曲線は振れないだろう。
でも点字を一字一字指でなぞることで、
それは「告白」から「歌」へと昇華するかも知れない。
先輩の父親は地元で有名な議員なので、
先輩も将来はそういう途を辿ると風の噂で聴いた。
盲目の政治家―、先輩は私が抱いているような、
障害者でも住み良い街づくりを志しているとか。
やはり、心を奪われた相手は
理想の高い人間であるに越したことはない。




