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第12章 亜紀子 さよなら、カナリヤ

 亜紀子、逸る気持ちで資金繰り。どうしてもエレキベースが欲しい。

カゴの中の鳥と形容された、歌唱が自慢のアーティストは

あっさり手離す対象に。

月曜日には既に自分の楽器を手にする亜紀子。

一番奥手で、

一番行動派のBlind Touchの第1候補生。


第12章 亜紀子 さよなら、カナリヤ

「えーっ? じゃあ、芝倉翔のDVD、全部売っちゃったんだ」


「うん、どうしても今月中にベースを自分の物にしたかったから。

翔さんは、冷めたとか、そんなんじゃないんだ。

それくらいBlind Touch、

汐音ちゃんやエッちゃんの存在が、

私の中で大きいってこと」


 自分を偽るな? 

私は嘘など一つも言っていない。

自分の中の音楽観は、

ここ数カ月でガラリ! と様変わりした。


「じゃあ、私が抜けた後の

Blind Touchを頼んだよ。

それにしても、亜紀が歌詞の提供ねえ。

私、思い込みで、曲を作った人が

歌詞を自由にできる権限を

持ってる物だと勘違いしてた。

でも、今更Blind Touchに

強い愛着が芽生えても……」


 私だって数カ月前までは、音楽はただ単に聴いて

楽しむものだという発想しかなかった。

 しかし、現在はBlind Touchの

サポート・メンバーとして、

作詞・演奏(ステージに立てるのは、

おそらくもっと先)の一端を担っている。

 エッちゃんの作詞・作曲の精度は、

素晴らしい! の一言。

ならば、私の詞は落書き?

というような評価は今の所下されていない。


 差別の気持ちなんて微塵もないが、

視覚的に障害のある彼女と、健常者の私は、

明らかに違う生活空間に暮らしている。

エッちゃんの描くワールドと、私の描くワールドは、

良くも悪くも重なる部分は少ないのだ。

 足りない部分を補いながら作品を築き上げる、

私事ではあるが崇高な行為をしていると思う。


 汐音ちゃんとの会話でも挙がったが、

今週の月曜日に、ついに自分のベースを手に入れた。

週一ペースの練習も、

自宅で毎日のようにできることを想像すると、

自然と胸が弾む。

「想像すると」と断ったが、

購入した日から夜通しアンプにヘッドフォンを

つないで身体の芯に、

えぐるような重低音を響かせている。


 エッちゃんは楽譜を書くことができないので、

各パートの演奏ラインを別個に録音して

メンバーに渡す。

Blind Touchの

サポート・メンバーの私も、

「蒸気」「ロープレ」の演奏ラインを

用意してもらった。

勘の良い人は気付いたかも知れないが、

エッちゃんは必要に迫られるなら、

ドラムも叩いてみせる。


 翔さん、芝倉翔はソロ・アーティストだが、

CDの制作に演奏(歌唱は含まず)で参加、

ということはしない。

 今でもファンだからそんな言い方は

したくなかったが、

極端な話、啼き声が美しいだけの

籠の中のカナリヤといった感じ。


 偉そうなことは実力を伴ってから? 

でも、はっきりしていることは、

音楽で自分を表現したいなら、

やはり何かの楽器のスペシャリストでないと。

最近、つとにそう思う。


 私は地元の教育大学

(具体的には渦潮教育大学)に進学する途を

人生設計に組み込んでいる。

 例え、エッちゃんがギター1本担いで上京するって言い出しても


「よ、四年間は待ってくれないかなあ……」

 と、うろたえながら打診すると思う。


 上京、か……。都会で生活するとなると、

嫌でも鉄道と密接な毎日を送ることに? 

電車、乗りたくないなぁ……。

 あの「傷」のことは過去の出来事に

なりかけていたのに、

脳裏に刻まれた恐怖は、

まだ見ぬ未来に不安の靄をかけるのだった。

鉄道事故=亜紀子のPTSD.壊死の寸前まで鉄柱に挟まれた。

靄=もや。四方を覆うもの。

 恵梨子は作曲もこなすが、TAB譜やドラム譜(ドラムの楽譜)を起こせない彼女は

メロディーラインやリズムパターンを逐一、カセットテープに吹き込んで渡す。

 それが解り易い、と毎回評判。……と、ここで気付いて欲しいのは

恵梨子は本気を出せばドラムスも叩ける逸材。いずれ登場する空間認知能力に関わる話。

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