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第10章 恵梨子 第三の目 開眼

ポコポコ運指表を使ってベースラインを確認していた折の気付き

「作詞作曲は分業できないの?」

目から鱗が落ち、衝撃でコロンブスの卵が起立する衝撃だった。

アッコちゃん、だったら二人でやってみよう。

第10章 恵梨子 第三の目 開眼

 アッコちゃんは、ライヴを観にきてくれたあの日から、

週一ペースで、箸元家に遊びにくるようになった。


 ポコポコ運指表を頼りに音階を

指に身体に叩きこんでゆくアッコちゃん。

1曲演奏するにはまだまだスキル不足だけど、

着実にステップ・アップしてゆく彼女を横に感じて、

私まで活き活きとしたエネルギーが湧いてくる。


 ある月の週末、アッコちゃんの前で、

アコースティック・ギターを抱えて私の曲を披露したことがあった。

なんでもライヴの時は、音響が悪くて歌詞が聴き取れなかったのだとか。


 弾き語り終えると、アッコちゃんはとても重要な一言を発した。

「ねえ、エッちゃん、私が歌詞を書いてきたら、

それに音を乗せたりできる? 

作詞作曲って全て自分で手掛けた方がまとまり易いものなの?」


「ううん、そんなことないじょ。Blind Touchの

メンバー、祇織・幽香さんは、詞も曲も提供してくれんかったから、

必然的にウチの仕事になっていたけど、

他の人のアイデアを土台に作品を手掛けることができるんやったら、

おもっしょいことになるかも知れん」


 この会話をきっかけに、アッコちゃんと私の

楽曲共同制作が口火を切った。


 翌週彼女が書いてきた詞のタイトルは「蒸気」。

冬の学習塾の教室にあるストーブ、

その上に乗せられたやかんから立ち込める蒸気が

内容の大半を担っているらしい。


 塾、という現場のイメージが掴みにくかった私は、

アッコちゃんと兄が通っている東高(県立東城高等学校)に、

もし自分が通うことになったら? 

という設定で、想像を膨らませて行った。


 視覚的に障害を負っているので、直接「見る」ことはできなかったが、

去年兄が文化祭を案内してくれたので、

東高(県立東城高等学校)の雰囲気は大体知っている。


 塾・蒸気というキーワードは大切にしたかったが、

それを度外視して、

Aメロを思いっきりベースが目立つアレンジにしてみた。

当面の間は祇織の演奏するパートだが、

いつかアッコちゃんが

正式にBlind Touchに加入した時に、

彼女自身が提供した作品を、

誇りを持って演奏してもらえる為の配慮だ。

 月が変わったある週末は、

「ロープレ」という歌詞を手土産に箸元家のチャイムを鳴らす。

「ロープレ」、ロール・プレイング・ゲーム

(Role Playng Game)は若者には

特に馴染みのある言葉だと思う。

私は当然のことながら体験したことはないのだが、

兄が粗筋を話してくれたり、BGMを聴かせてくれたりしているので、

無縁の代物だとは感じない。

 自分で自由に制作していた頃とは、

流石に勝手は違うのだが、新しい世界とのつながり、

それは第三の目を開眼したかの如く心境だった。

 関東地方の大学に進みたい祇織は、

塾を掛け持ちしていたりして、なかなか連絡が取れなかったが、

たまに週末ひょっこり姿を現し、

「蒸気」「ロープレ」のベースラインを、

アッコちゃんにレクチャーするような時間も設けられた。

 そんな日々が流れ、私は盲学校、アッコちゃんは

東高(県立東城高等学校)の、それぞれ2年生に進級。

新しい季節が南風に運ばれて頬をくすぐる。

盲学校と、東高(県立東城高等学校)の2年に進級……。

受験生の幽香さんの背中を見送り

二人は固定できるドラムスを捜し始めた。

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