血も涙もない冷たい奴ら②
……というわけで、今俺たちは巨大雪だるまに追いかけられている。
中央制御室でお宝を漁ってから、脱出に取り掛かった俺たち四人はダンジョンD-431テラロッサマウンテン(ジェレマイアさん流に呼べば『赤い山』でナターシャさん流に呼べば『クリスタルパレス』)の地下部分を逃げ回った。
早いとこ地上に出たいと思っても、あっちから雪だるま、こっちから雪だるまと雪だるまに追いかけられて、なかなか地上に向かう線路のある一本道に出られない。
そのうち見覚えのない場所に迷い込み、完全に方向感覚を失ったところで、あの巨大雪だるまが出現したのだ。
「本当にこっちで合ってるんでしょうか? 袋小路に追い詰められるってことは?」
「ないとは言い切れんが、今はおやっさんを信じるしかないだろう!」
ロレンスさんの言う通り。
ジェレマイアさんは不思議と迷いなく先頭を走っている。
「早くせんと置いてくぞーい」
あーもー、ドワーフなのになんでそんなに脚が速いの!
息が上がる気配もないし、マラソンスキルかなんか持ってるのかもしれない。
俺はついてくのがやっとなんですけど。
壁を削りながら追ってくる巨大雪だるまも速い。
今のところは一定の距離を保っているけど、こっちが疲れて遅くなったらたちまち追い付かれてぺしゃんこにされてしまうだろう。
体力が残っているうちに逃げ切らねば!
ひょいひょいと弾む足取りのジェレマイアさん。
なんと行く手に出口と思しき光が見えてきた。
奇跡か!
「ふっ、やはりな。魔力回路で地下を冷却し、その分地上に放熱していると見たが、大当たり。あれこそが放熱の出口!」
「細かいことはどうでもいいです。とにかく外に出られるんですね!」
「外は灼熱。時間をかけて逃げ回っているうちに雪だるまも溶ける!」
「まだ走らなきゃならんのか!」
「広い分だけここよりマシだ! 外に出たら各自散開、左右に散れ!」
なるほど、巨大雪だるまは一体だけだから、左右に分かれて逃げればどっちか片方しか追いかけられない。
俺は大きく頷いた。
できれば俺じゃない方に雪だるまが行きますように。
出口の光がだんだん近くなってくる。
もうちょっとだ、すぐそこだ。
……3、2、1、出た!
抜けるような青い空、どこまでも続くように見える赤い大地、眩しい太陽。
トンネルを抜けるとそこは岩山だった。
出口は斜面の途中に開いていた。
山肌は斜度どのくらいなんだろうか、俺には垂直に感じられた。
足場、ないじゃん。
厳密に言えば、ちょっとだけ足場があった。
大きめのテーブル一個分くらいのスペースが。
それだけで、他には道も階段もない。
右か左に曲がろうと思ってたから止まれたけれど、何も考えずに直進してたら空中に飛び出してたとこだよ。
地面まで相当な高さがあるのに、フリーフォールだよ。
ぎりぎりで足を止めた俺たちは山肌にぴたりと張り付いた。
数秒後、猛然と追走していた巨大雪だるまが出口から飛び出してきた。
惰性で空中を直進し、放物線を描いて落ちていく。
ヒュ~~~~、グシャッ。
擬音にすればそんな感じだった。
巨大雪だるま、あっけない最期。
「南無~釈迦~牟尼~仏~」
ジェレマイアさんが念仏を唱えた。
魔物に魂があるのか、仏教式で成仏できるのか知らないけれど、そこは釈迦牟尼じゃなくて阿弥陀仏が良いと思います。
この世界にお釈迦様は生まれていないと思うから。
落ちたら俺たちもああなると思うと、下半身がスースーする。
ところで素朴な疑問だけど。
「どうやって下まで降りたらいいんでしょうか」
誰にともなく呟いた。
「俺に聞くな」
マーティーさんが答えた。
ロレンスさんは無言だった。
地面は遥か下。
お願い、誰かここから降ろして。
できれば速やかに、かつ安全に。




