血も涙もない冷たい奴ら①
俺は雪だるまの槍を手に入れた。
ジェレマイアさんに改造された『忘却のハルバード』に比べたら頼りない武器だけど、素手より全然マシ。
目の前の雪だるまを倒し、興奮冷めやらぬ状態で槍を握りしめて肩で息をしていると、どこからともなくファンファンファン……と急き立てるような音が鳴り始めた。
「む、警報か」
「そりゃバレるよな」
「皆の衆、隠れるぞーい」
ジェレマイアさんがあれだけでっかい火炎をぶっぱなし、他の皆も大立ち回りをやってたのだから、気づかれないわけがない。
警備員(雪だるま)が団体でやってきそうな気配。
俺たちは手近な小部屋に飛び込んだ。
その扉には『中央制御室。管理者以外立ち入り禁止』と書かれていたけど、緊急事態なんだから仕方がない。
これは命を守るためのやむを得ない行動、そう、緊急避難というやつなんですよ。
息を殺して身をひそめる俺たち。
扉の外では大勢の足音……ではないな、雪だるまには脚はないから……どやどやと行き来する気配があった。
しばらくするとその気配もしなくなった。
「どっかいっちゃいましたね?」
「ここが『管理者以外立ち入り禁止』だからかな。警備モンスターは入ってこられないんだろう」
「あのナターシャって女しか入れないってことか。だったらここは安全地帯?」
「そうだといいが楽観視はできんな。権限を持つ者が他にいないとは言い切れん。長丁場になると誰かが踏み込んでくる可能性が増える。水も食べ物もないから籠城にも向かんし」
「近くの部屋に行けば肉も魚も野菜もありましたけどね」
「じゃあおまえ行って取ってくるか?」
「やです」
いくら外に気配がないとはいえ、敵地だよ?
一人で偵察に行って捕まったりしたら今度は何をされるか。
一人だけ酷い目にあわされるのは嫌だ。
捕まるならみんなで一緒に捕まろう。
「ふんふん、これは興味深い」
ジェレマイアさんは中央制御室の中を検分している。
部屋の中は管制室みたいな雰囲気だった。
壁にはモニターらしき明かりが灯ったパネルがあり、意味不明なうにょうにょ動く図が映し出されている。
室内には座席と無数の計器っぽい物が並ぶ制御盤らしき台と、その他なんだかわからない物体が色々ある。
計器類はうっすら光っているし、赤や緑の光を放つボタンのようなものもいくつかある。
室内全体が剣と魔法の世界にしては妙に近代的というか、機械工学的な雰囲気が漂っている。
同時に魔術めいた雰囲気もあり、台に刻まれた魔法陣と思われる図形の文字は見たこともないエキゾチックな文字で、それがなぜか立体的にぐるぐる回転している。
この世界に転生して日本語でない文字を何気に初めて見たかも。
そして謎の文字よ、なぜ回る?
「これは古代魔法王国の文字だな。すなわちこれは古代の遺跡に違いない」
おお!
古代の遺跡!
もしや凄い発見なのでは?
「つまり偉そうに自分の城とかのたまっておったが、あの女が自分で作ったわけではなく、古代遺跡を乗っ取り私物化したにすぎんということ!」
「あ、そういう結論になるんですね」
「ならば儂にもここを使う権利はあるはず!」
「いやそれはおかしいでしょう。なんでそうなるんですか」
先に発見したらしいナターシャさんはともかく、後から来たジェレマイアさんにはなんの権利もないのでは?
「こんな面白そうな物、他人に独り占めされてたまるかーい。儂だって遺跡を調べたい。古代遺跡の発掘は男の浪漫なんじゃーい」
地団太を踏むジェレマイアさん。
子どもか。
いい歳のドワーフが駄々をこねないでください。
「儂だって儂だって」
「はいはい、わかりましたから。とにかくいったん外に出ましょう」
駄々っ子モードのジェレマイアさんを宥めて脱出させようとしたら、マーティーさんから待ったがかかった。
「ここまで来て手ぶらで帰るのも悔しい。戦利品として持ち出せそうな物は持ち出そう。何がお宝か分からないから適当に」
「窃盗で立件されたりしませんか?」
「ここはダンジョンだから落ちてるアイテムを拾っても違法じゃない。それに俺たちだって武器取られてんだろ」
「そう言えばそうですね」
押収されたハルバードと雪だるまの槍との交換では、こっちがまだ損してる気がする。
各自、略奪行為、もといダンジョン内での発見物拾得行為を働くことになった。
俺はその辺にあった魔石らしき物を一個ポケットに入れた。
損失の埋め合わせになればいいけど。
埋め合わせにならなくても、ナターシャさんへの嫌がらせになるならそれでもいい。
自称:クリスタルパレスの女王ナターシャ、俺たちを問答無用で氷の牢獄に放り込もうとしたのは許せない。
ネーミングセンスをけなされたことは気にしてないけどね、ちょっとしか!




