砂漠の冷凍冷蔵庫④
「『クリスタル山』はないわー。センスがないし、まるで実態を表してないじゃないの。しょぼい安アパートがメゾン・ド・何々って名乗るのと同じくらい実態から乖離しているわ。ネコって名付けられた犬やポチって名付けられた猫くらい無理のあるネーミングだわ」
「『赤いパレス』もないな。異なる二つの物を融合させる際にはただ切ってくっつければいいというものではない。『赤い』と『パレス』では大和言葉と外来語。異種言語で調和が取れておらん。雑にくっつけてバランスを崩した見本だな」
はいはい、俺が悪うございました。
なぜかネーミング問題で俺がディスられている。
喧嘩した二人が悪いのに。
「さて、それでは本題に戻りましょうか」
ナターシャさんは玉座っぽい所に座り直した。
一段高い所から見下ろす様子は本来なら威厳があるはずなんだけど、膝にひざ掛け、背中にマント、足元に小型のスチームアントを置いてぽっぽと蒸気を吹かせている様子は寒がりの女性が毛布にくるまりストーブで暖を取ってるようにしか見えない。
「ここは私が独占的に支配している私のお城、あなたたちは無断で入ってきた侵入者。これが私の認識よ」
「ここはダンジョンの未発見エリア、儂らは新規に発見されたエリアを探索しに来た冒険者とその依頼人。これが儂の認識だな」
「ではお互いの認識を補強する材料を出し合いましょうか」
「エビデンスの提示だな。よかろう」
と、ここまでは冷静な大人の話し合いに見えたのだが。
「そもそもダンジョンを自分の城呼ばわりして改造しとる点からして不法占拠の疑いがある」
「あなただって地上部を占拠して農場を作ってるんでしょ。同じことよ」
「儂はちゃーんと各方面に許可を取っとる。お前さんのようにコソコソしとら~ん」
「コソコソとは何よ。私は可愛いペットたちが迷惑をかけないように一般市民から距離を取ってるだけよ。ところかまわず植物モンスターを生やし散らかしてる人とは違うのよ!」
だんだん論点がずれてきて。
「儂は5年も前から『赤い山』で実験しとるんじゃ!」
「私は10年も前から『クリスタルパレス』で活動してきたわ!」
どんどん脱線していって。
「自称・女王とか痛すぎじゃ~い。蟻の女王って女王蟻か。あの蟻たち自分で産んどるんか~い」
「キィーッ、言ったわね! 女性への侮辱よ! 低俗! 下劣! 下品すぎるわこの下ネタ親爺ドワーフ!」
子供の喧嘩みたいになって。
「拘留よ! あんたたち氷の牢獄で反省しなさい!」
謁見の間から牢獄へと移送されることになったのだ。
スチームアントと雪だるまに挟まれて歩かされながら、冒険者同士で愚痴を言い合った。
「仲裁すべきでしたかね」
「いや、あの二人の口論に割って入るのは無理だろ」
「どっちも他人の言うこと聞きそうにないしな。おやっさん一人いるだけでも大変なのに、よく似たのと二人になったら俺たちの手には負えないよ」
来た道を引き返す形で『調理室。高温注意。雪だるま入室厳禁!』『中央制御室。管理者以外立ち入り禁止』『ワイン保存庫』『チーズ保存庫』とプレートのかかった扉を幾つも通り過ぎていく。
肉・魚の保存庫に差し掛かったあたりで、ジェレマイアさんがボソッと呟いた。
「後方は任せる。精霊さん精霊さん前方にぶっとい火炎を放射してちょうだい。Ακραία ακτινοβολία φλόγας.」
呪文を唱え終わるや否やジェレマイアさんが突き出した手のひらから直径2メートルくらいあるオレンジ色の炎が轟音を立てて噴出した。
いきなり何すんの!?
硬直する俺の左右でロレンスさんマーティーさんが素早く動いた。
後ろにいるスチームアントと雪だるまを蹴り飛ばし、殴り倒す。
何これ一斉蜂起!?
打ち合わせも無しになんで動けるの?
「新入り、右だ!」
「雪だるまからやれ!」
「はいっ!?」
わけがわからないけど、飛んできた指示に従って近くにいる雪だるまに向き直る。
突き出してくる槍を回避して相手の懐……雪だるまに懐ってあるのか?
とにかく間合いに飛び込み、殴る、殴る、殴る。
雪だるまの弱点ってどこだ?
目玉か?
それが正解かどうか自信はないけど、他に弱点らしい所も見当たらないのでとにかく目玉を狙って殴っていたら、雪だるまの顔面がえぐれて目玉パーツが飛んで行った。
飛んで行った先でカツーン、コロンコロンと音がしていたから、何か硬い物で出来てたらしい。
何で出来ているのか、どういう構造なのかは想像もつかないが。
目が無くなった雪だるまは視界が失われたらしく、丸い頭部をキョロキョロと左右へ動かしている。
チャンス!
すかさず雪だるまの持つ短めの槍を奪い取る。
武器ゲット!
俺は雪だるまの槍を手に入れた!




