砂漠の冷凍冷蔵庫②
古代魔法王国人が雪だるまを作る文化を持っていたかどうかはともかく、そんな昔に作られた雪だるまが今も残っているはずがない。
魔法のある世界だから絶対とは言い切れないけど。
「何者かは不明だが、線路や雪だるまを作った存在がこのダンジョンに今もいる可能性がある。用心せいよ、皆の衆」
「「「了解」」」
俺たちは用心深く前後左右に注意を払いながら坂道を下って行った。
進むにつれて気温がどんどん低くなる。
壁際に置かれた雪だるまの数も増えていく。
「視線を感じるような気がする」
「魔物か?」
「分からんが『獲物がきたぞ、食事の時間だ』みたいな殺意は感じない」
「おまえ普段から魔物にそういう視線向けられてるの?」
「食欲で襲ってくるやつはそんな感じだ」
「じゃあ今感じてる視線はどんな感じですか?」
「ショップ店員に『この客は何を探しているんだろう』ってさりげなく観察されてるような感じ」
「それ『獲物がきたぞ』と一緒じゃないか?」
「話は変わるが、雪だるまが動いているような気がする」
「雪だるまが動くわけないだろう」
「でもあの雪だるま、前を通り過ぎた時には正面向いてたのに、今振り向いたら斜め横向いてるんだが」
「気のせいだろ」
「溶けて崩れて傾いたんじゃないですか?」
「この寒さで解けるかねえ?」
「あ、わかった。視線感じるって言ってたのは雪だるまの視線だ」
「それは錯覚の一種だな」
「ああ、点が三つあると顔に見えるみたいな?」
「電柱に警察官の絵が描いてあると交通違反しづらくなるみたいな?」
「肖像画の目がこっちを追うように動いてるように感じるみたいな?」
ちょっと学校の怪談みたいな会話を交わしながら、この時は本気で怖がってはいなかった。
進むにつれて冷えてきた。
天井から小さな氷柱がぶら下がっている。
「こう寒くては活動に支障をきたす。ちょいと魔法を使うぞ。精霊さん精霊さん温かいお布団のような空気で儂らを包んでちょうだい。Τύλιξέ με σε ζεστό αέρα」
ジェレマイアさんが呪文を唱えると、ほわっと温かい風呂場の湯気のような空気が俺たちを包み込んだ。
「おお、温かい!」
「これは便利だな」
「ありがとうございます、快適です!」
元気百倍、更に先へと進んだ俺たちが見たものは。
「なんだあれ、蟻の巣か?」
「いや、工場だろ?」
「採掘現場じゃないですか?」
「終着駅だと儂は思うぞ」
てんでんバラバラの感想だが、その光景はどれもが当てはまるように思えた。
ドーム球場くらいの大きさの広間に数えきれないほどのスチームアントが整然と列を作って行動し、ある所ではお互いにボディのメンテナンスを行い、またある所では壁に開いた穴から鉱石らしき物を運び出し、また別の所ではその鉱石らしき物を木箱に入れている。
俺たちが辿ってきた線路はその鉱石箱詰め作業コーナーで終わっていた。
スチームアントが数匹、箱詰めが終わった木箱をトロッコに積み込んでいる。
蟻なので音声会話は聞こえてこないが、顎をカチカチ鳴らしたり、プシューッと蒸気を吐き出したり、鉱石をガチャガチャと音を立てて運んだりで、けっこう騒々しい。
騒音のせいかスチームアントは俺たちに気づいていないようだった。
俺たちは通路の曲がり角に隠れた。
相談タイムだ。
「どうする?」
「あれだけ数が多いと俺たちだけで討伐は難しい。引き返そう」
「そもそも討伐していいものなのかどうか微妙ですよね」
「儂の見立てではあのスチームアントは誰かにコントロールされとると思う。スチームアントだけでトロッコだの線路だの使いこなす知恵はなかろう。問題は彼らをコントロールしておる何者かが悪者なのかそうでないのか、だな」
短い沈黙が流れた。
何百匹ものスチームアントを使役してダンジョンの地下で何かを採掘して運び出させている存在。
それがもしも悪人だったとしたら……。
急に寒さが強まった気がした。
「引き返しましょう」
「そうだな」
「帰るか」
口々にそう言い合って、俺たちは地上に引き返そうとした。
来た道を戻ろうとしたら、そいつらがいたのだ。
通路をふさぐ雪だるまの軍団が。




