砂漠の冷凍冷蔵庫①
俺たちは必死に走っている。
出口を目指して。
「走れ走れ皆の衆~。逃げ遅れたらぺしゃんこだぞ~」
他を大きく引き離してジェレマイアさんが先頭にいる。
なんでドワーフなのにそんなに脚が速いんだよ!
背後から追ってくるのは通路をほぼ埋めるサイズの大玉、いや、巨大な雪だるま。
なんで雪だるまが自ら転がりながら追いかけてくるんだよ!
砂漠の地下で巨大雪だるまに押しつぶされそうになりながら全力で逃げる、逃げる、逃げる!
枝分かれのない一本道だから避けようがない。
ひたすら前へ前へと走るしかない。
一瞬でも足を止めたら巨大雪だるまの下敷きだ。
巨大雪だるまはカーブも速度を落とさず追いかけてくる。
雪だるまのくせに器用な!
「あいつ目が回ったりしないのか?」
「三半規管がないんだろ!」
ロレンスさんとマーティーさんは走りながら会話する余裕があるらしい。
俺にはそんな余裕はないけど変な疑問は沸いてくる。
「通路はかまぼこ型で、雪だるまは球型なんだから、端っこに伏せたらギリギリ回避できたりしませんか!?」
「だったらおまえ試すか?」
「嫌です!」
んなもん自分の体で実験するとかありえない。
ただちょっと思いついて言ってみたくなっただけだから!
「雪だるまの直径は道幅いっぱいのおよそ6m。直径6mの球体の体積に平均的な雪の重さを掛け算すると、概算でおよそ45tの雪玉じゃーい。当たればケガじゃ済まんぞ~」
ジェレマイアさん、走りながらよくそんな計算できますね。
その数字、今は聞きたくなかったです。
雪だるまは『雪』と言いつつ実際には氷のような硬さであるらしく、壁にこすれても砕けない。
ガリガリッ、と壁を削るような音を立てながら追ってくる恐怖の物体。
心なしか徐々に距離を縮められているような。
最初は気楽な探索だったのに、スチームアントくらいしか出なかったのに。
そう、あの線路に沿って下って行くまでは……。
※
(数時間前)
線路に沿って緩やかな坂道を下っていくと、徐々に景色が変わっていった。
地上付近の乾燥した赤い岩肌から、湿っぽく苔の生えた壁へ、更に下るとシダ植物らしき緑の葉っぱや光るキノコもちらほらと。
どこから光が差し込んでいるのかわからないけど、葉っぱの緑色が識別できるくらいには明るい。
岩妖精のワンダーランド洞窟は真っ暗だったのにね。
「ふむ、地上は不毛の砂漠だが、地下は水気があり、このように植物相が見られる。光源は左右の壁上部にはめ込まれた光石だな。光らせるための魔力はどこからどのように……地上から引いてくるとして導線は……」
ジェレマイアさんは独り言を呟きながら観察とメモ取りに忙しそうだ。
「肌寒くないか?」
「地下だからな」
「地上が暑かった分、ギャップが凄いですね」
ロレンスさんとマーティーさんは装備を直している。
今着ているのは酷暑の砂漠用の装備だからね。
地上が40℃前後だったのに対し、ここは16℃前後。
開いた袖口を縛ったりして寒さに対応する必要がある。
俺も手袋を装着し、首のバンダナを巻き直した。
更に進むと一層気温が低くなった。
息が白い。
通路の隅っこに雪だか氷の粒だか、何か白い物が見受けられるようになった。
「地下にしても寒すぎないか?」
「冷蔵庫の中にいるみたいだな」
「ロレンスさん、マーティーさん、ちょっとあれどう思いますか?」
俺は違和感のある物体を指さした。
通路の壁沿いにそれとなく置いてある、意識しなければスルーしそうな物体。
でもちょっと気になる物体。
白くて丸くてデフォルメされた顔があるやつ、それは。
「雪だるま? ……だな」
「なんでこんな所に」
「誰かが作って置いてるんでしょうか」
「誰かがって誰が。魔物が?」
「魔物が雪だるま作るか? 人間が置いてったんじゃね?」
「ここは未発見の階層ですよね。俺たち以外に人間が入ったりしてないはずでは」
「じゃあ誰が」
無言になった。
薄ら寒い気分。
引き返した方がいいかも。
「やっほっほーい、皆の衆、面白いことがわかったぞ」
メモに何やら書き込んでいたジェレマイアさんが顔を上げ、ハイテンションで言い出した。
「壁に流れる魔力のベクトルを解析してみたところ、多くの魔力がこの下へと集中しとる。そこで大量の魔力を使う何かが稼働中なんだな。おそらくは古代魔法王国の遺産と見た」
「古代魔法王国の」
「遺産」
ロレンスさんとマーティーさんがゴクリと唾を飲み込む。
冷凍保存された古代の遺産、氷河の下から発掘されたマンモスみたいなものだろうか。
それはそれで浪漫だが、俺には気になることがある。
このダンジョンが古代魔法王国の遺産だとするならば。
「あの雪だるまを作ったのも古代魔法王国人ってことでしょうか?」
「……」
沈黙しか返ってこなかった。




