熱砂の下に
「いやっふぅ~!」
ハルバードで横なぎに払うとアリの魔物の上半分が飛んでいく。
上半分が飛んでいっても下半分は倒れず、そのままシャカシャカ歩いて迫ってくる。
それを今度はズバーンと唐竹割り!
真っ二つに割れたー!
気持ちいいー!
今戦っているのは大型犬くらいのサイズのアリなのだが、なぜか背中に生えた筒から蒸気を噴き出している。
腹部はなんとなく金属の蛇腹っぽく見えるし、これ本当にアリなのだろうか。
魔物は大体どれもどこかおかしいが、こいつらは特におかしい。
まあ倒すのは簡単だからいいんだけど。
「蒸気を出す巨大アリであるから仮称スチームアントと名付けよう。どれ、体内は……なるほど、ボイラーのような構造だな」
ジェレマイアさんはメモ帳と鉛筆で魔物の外見をスケッチしている。
そのスケッチがやけに上手い。
職人は絵も描けるんだね。
「フッ、またつまらぬものを斬ってしまった」
どこぞの剣術使いみたいなセリフを吐いて前髪をふぁさーっとかき上げているのは、デスサイズの使い手、ロレンスさんだ。
斬り捨てたスチームアントは綺麗に両断されて、切り口から正体不明の金属部品が見えている。
このアリ、ロボットなんだろうか。
「貧弱、貧弱ぅ! 弱すぎるぞスチームアント!」
大剣の使い手、マーティーさんは一度に3体のスチームアントをいっぺんになぎ倒している。
範囲攻撃というやつですね。
豪快な戦いっぷりは見ている方も気分爽快です。
そして飛び散るのは血液ではなさそうな液体少々と、ボルトとコイルとワイヤーなど。
やっぱこいつらメカだよね?
実験農園に開いた大穴から降りてきた俺たちは大した危険に出くわすことなく、小刻みに遭遇する雑魚を景気よく蹴散らしていた。
地上の岩石砂漠と違って涼しくて快適そのもの。
雑魚しか出ない地下ダンジョン探索、楽しいぃ~!
いやっふぅ〜!
※
「出てくる敵の半数は仮称スチームアント、他には仮称ギアスパイダー、仮称クロックワームなど、機械だか生物だか分からんものがちらほらといった感じだな」
「どれもロボットですよね?」
「ロボットかもしれんし、ゴーレムかもしれん。或いは新種の魔物かもしれんし、誰かが魔物を機械と融合させとるのかもしれん。どれとも断言はできんな」
機械と融合。
そんなことが出来る人がいるのだろうか。
……いたような気がする。
どこかでそんな感じの話を聞いたような、悪魔合体とかなんとか……。
いや、やっぱ気のせいか。
頭痛がしてきたのでそれ以上考えないことにする。
俺たちは探索の途中でマップを確認しながらこの後どうするか話し合っていた。
地下のダンジョンは思ったよりも深かった。
陥没で開いた穴からロープを使ってちょっと降りたら、すぐに階段があり、階段を下っていくと曲がりくねった通路が続いていた。
最初の内は何が起こるか分からないから警戒して慎重に進んでいたのだが、拍子抜けするほど何も起こらなかった。
出てくる魔物は簡単に倒せるものばかり。
そうなると気が緩んでくるのも仕方ない。
迷うことのない一本道をズンズン歩いていたら左右に伸びる広い道路に突き当たった。
その道路は大型ダンプがすれ違えそうなくらいの道幅があり、右へは緩やかな上り坂、左へは緩やかな下り坂になっていた。
道路の手前側には角ばった金属棒が2本、並行して設置されていた。
そして向こう側にも同じように並行して2本。
おそらく鉄なのであろう茶色く錆びた並行して伸びる金属棒には、無性に前世の記憶を刺激するところがあった。
「この景色、日本で見たことあると思いませんか?」
「思う。よく似たものを毎日見てた。通勤で」
「俺は通学で見てたな」
「儂は自転車通学とマイカー通勤だったが、レジャーで遠出する時によく見たぞ」
四人、せーので答えを言う。
「「「「線路」」」」
満場一致でした。
…ってなんでダンジョンに線路があるんだよ!
「もしやここは古代の地下鉄?」
「さてな、坑道などのトロッコのレールかもしれんし、線路に見えても別の何かかもしれんし、そこはまだ分からんがな」
いや、線路にしか見えない。
少なくとも俺の直観はこれを『線路だ』と言っている。
「で、どうする、おやっさん」
「線路に沿って上るか、下るか、来た道引き返すか。三択だな」
ロレンスさんとマーティーさんの言葉を受けて、ジェレマイアさんは指で左方向を指した。
「上りだと地上に出るだろ。下りだ。うるさい弟子がおらん間に行けるとこまで行っとかにゃ。こんなチャンス二度と巡ってくるか分からんからな」
ですよねー!
ダンジョン探索た〜のし〜い!!
※
認めよう、この時の俺は、いや俺たちは、調子に乗っていたと。
この先に待ち受ける脅威について、何も分かっていなかったと。
この後、俺たちは思い知らされることになる。
ダンジョンは甘くない、と。




