赤い大地の大穴
突如発生した地割れにアロエ・ギガンティカが飲み込まれた。
陥没で出来た穴は大きく、農場の一画がほぼ穴になっている。
危なかった。
とっさに飛び退いてなかったら、俺もあの陥没に巻き込まれていたかもしれない。
アロエ・ギガンティカの巨体がすっぽり入るくらいだから、深さも相当深いはず。
そーっと穴を見に近寄っていく。
冒険者の皆さんも用心しながら集まってくる。
「なんと落とし穴か、こんな所に?」
「先生、危険です」
ジェレマイアさんが穴に向かって走り出すのをケイトリンさんが止めようとしている。
確かに危険ではある。
再び地面が揺れて穴が広がらないとも限らない。
しかし危険を承知で見に行っちゃうのが冒険者というものだ。
だって見たいじゃん、突如開いた大穴。
前世でも時々こんなニュースあったよね。
不謹慎だけどワクワクする。
突然起こった不思議な出来事には祭りのような興奮がある!
冒険者一同で覗き込んでみた穴の中は意外と静かなものだった。
パラパラと砂が落ちる音がする。
穴の縁が崩れたら嫌だな、と思いつつ、観察すると…。
「ここの土って意外と浅かったんですね。空洞の上に土の蓋が乗っかってた感じ?」
「そうだな。断面を見ると土の層は深さ1メートルもないな」
「赤い土の層の下にある灰色の層って、あれ石ですかね?」
「コンクリートに見える。俺の目がおかしいのか?」
「俺にもコンクリートに見える。ていうか継ぎ目あるじゃんか。もろに人工物だぜ」
「なあなあ、あの辺、階段っぽくないか?」
「おー、確かに。ちょっと頑張れば降りられそう」
上からの光で見える範囲を観察してあーだこーだと仲間内で議論する。
その様子を見て安全だと判断したのか、ジェレマイアさんとケイトリンさんも近寄ってきた。
「大丈夫かね皆の衆。有毒ガスとか出とらんかね?」
「そういう危険性は先に忠告してくださいよ。空気吸っちゃったじゃないですか。大丈夫でしたけど。むしろ涼しい風を感じます」
穴の底からひんやりした空気が吹き上がってくるのだ。
天然のクーラーって感じ。
「おやっさん、これは隠し階段じゃねえかな。この下にダンジョンの別の階層があると思うぜ」
「ふむ。このダンジョンに地下部分があるとは聞いたことがないが。断面を見るとこれは確かに人工物。すると、この下は未発見のエリアということか」
「先生、それ以上身を乗り出しては危険です」
ベテランっぽい冒険者の指摘を受けて、ジェレマイアさんは興味津々、今にも穴に飛び込んでいきそうだ。
ケイトリンさんがしっかりとジェレマイアさんの服を掴んでいるから勝手な真似はできそうにないけど。
「未発見のエリアとなると、どんな魔物が出るか予想がつかない。俺たちだけで対処できる問題じゃないな。冒険者ギルドに連絡して人呼んでこよう」
「かといってここを無人にもできないぞ。二手に分かれるか。ギルドに行くグループと、ここで穴の監視をするグループと」
「報告は一人でもよくね?」
「まずは非戦闘員の避難だろ。護衛として冒険者二人だな」
てきぱきと役割分担を決めていく。
ギルドに連絡に行く三人のうち一人は植木屋さん。
「俺は植物専門だから他の魔物相手だと自信ないし、助っ人呼んでくるよ」
もう一人は非戦闘員であるケイトリンさん。
本人は拒否したのだが。
「私は先生の傍を離れるわけにはいきません」
「ケイトリンは『なぎ払え~』ができんから。むしろ傍にくっつかれてると邪魔なので、ここは大人しく町に帰りんしゃい」
「邪魔ですか…?」
ジェレマイアさんの非情な戦力外通知により、連絡班に入れられた。
大鉈を武器とする冒険者が護衛に加わって、合計三名で冒険者ギルドを目指すと決まった。
「ジェレマイアさんは避難しなくていいんですか?」
「実験農場の責任者として儂は残る」
沈む船に残る船長みたいなこと言っ格好つけてるジェレマイアさん。
「不本意ですが、足手まといになるわけにはいきません」
俯くケイトリンさんは少し可哀そうだったけど、仕方ない。
冒険者でもない民間人を危険にさらすわけにいかないからね。
※
「町までの道にも魔物は出る。コヨーテ、スコーピオン、ガラガラヘビ。気を付けて行ってきんしゃい」
「応援を連れてすぐに戻ってきますから、無茶しないで待っててくださいね」
ケイトリンさんと植木屋さんと大鉈使いの姿が見えなくなるまで見送って…。
「…よし」
おもむろにジェレマイアさんは俺たちの方を振り向き、にんまりと笑った。
「さて、皆の衆。うるさいのはいなくなった。今のうちに探索としゃれ込もうではないか」
うわ、悪い顔してる。
最初からそのつもりでケイトリンさんを追い払ったのか。
でもまあ……。
「行っちゃいますか」
「そうだな」
「やるか」
隠し階段が見つかったらそれを使って未知のエリアに潜りたがる生き物、それが冒険者なのだ。
大剣使いの人、デスサイズ使いの人、ジェレマイアさん、俺、四人の男たちは揃って拳でハイタッチした。
ケイトリンさんがいないうちに、未発見エリアの探索、行っちゃおうぜ!




