陥没! 実験農場
ここは赤い岩山ダンジョンの中にある錬金術師の実験農場。
農業研修という名の収穫アルバイトに雇われて3日目。
ここでの仕事は比較的順調に進んでいた。
ジェレマイアさんが突発的に植物モンスターを育てたり、ケイトリンさんが何もない所で盛大に転んだり、物を壊したり。
そんな出来事に度肝を抜かれた初日だったが、二日目からはそんなトラブルにも慣れて。
「いでよエフェメラルプランツ!」
はいはい、植物モンスターを狩ればいいんですね。
ザクッとやりますよ、ザクッと。
『狩る』というより『刈る』ですけど。
ガッシャーン。
「申し訳ありません」
はいはい、お皿が割れたんですね。
冒険者がやりますので、ケイトリンさんは座っててください、その方が被害が少ない。
とまあこんな具合にてきぱき処理できるようになっていた。
依頼の目的だった『レアアイテムを入手すること』については目立った成果はなかった。
他の冒険者だけで刈り取るよりは、俺が加わった方が多少レア度が上がるかな、くらい。
神殿のお守りと同じくらいに『気持ち差があるかも?』程度の結果しか出なかった。
「ビギナーズラックが仕事してなくて済みません」
「それは君の落ち度ではないので謝罪は要らんが、ビギナーズラックが作用する場合とそうでない場合の違いはどこなのか、突き止めてみたくはあるな」
俺とジェレマイアさんは収穫物を仕分けしながら雑談を交わしていた。
ジェレマイアさんは曲者・際物枠のマッド・アルケミストではあるが、陽気で気さくで話していて楽しい相手だ。
「今まではどのような条件でレアドロップが出たのかね?」
「一番わかりやすかったのは『子猫円舞曲』の金ネズですね」
めったに出ないらしい『管理者キー』というアイテムが面白いように出た。
「あの時は発動スイッチを俺が押して金ネズを出して、それをまた俺が叩いて管理者キーを落とさせる、という流れを何十回も繰り返しましたね」
「ふむ、発動から」
「最近では暗闇ランプを入手したんですが、その時は暗闇妖精をひたすら集めて片っ端から殴りましたね、俺が」
「なるほど、ソロで攻撃と」
ふむふむ…とジェレマイアさんが何か呟きながらウロウロと歩き回り始めた。
この人は考え事をする時に意味もなく歩き回る癖があるらしく、用事がある時もない時も落ち着きがなく常に動き回っている。
「モンスター発生時からビギナーズラックの影響が……と仮定すると既に発生済みのモンスターに攻撃しても効果は薄く……発生段階から作用させるには……」
どうでもいいけど、目の前を右へ左へウロウロされるとちょっと鬱陶しい。
どこか離れた所を歩いてくんないかな。
そんなことを思っていたら、ジェレマイアさんの足がピタリと止まった。
「アーウィン君」
「はい?」
「君、種まきからやってみんかね」
※
「なに、簡単な事だよ。迷宮遊園地のスイッチをアーウィン君が押せばレアモンスターが出た。ならばエフェメラルプランツの種をアーウィン君が発芽させればレアモンスターが発生する可能性が高い。レアモンスターが出ればレア素材が出る可能性も高まる」
「エフェメラルプランツって例の即座に芽が出て急成長する植物の総称ですよね? ジェレマイアさんやケイトリンさんが発芽させた植物モンスターでも割と手ごわいのに、更にレアなのが出たらマジで怖いんですけど」
ジェレマイアさんの思い付きにより、種まきと水やりをすることになった俺。
冒険者の皆さんは遠巻きにして様子を見ている。
もうちょっと近くで見守ってくれてもいいんですけど。
「植物の種類自体は変わらんから安心して発芽させんしゃい」
「まあ仕事だからやりますけど。ちゃんとフォローしてくださいよ?」
俺一人だけに戦わせるとか言ったら、泣くよ?
冒険者の皆さんが離れた所から頷いたり、腕を曲げて筋肉を見せたりしている。
本当に間に合うタイミングで助けに入ってくれるんだろうね?
「では、いきまーす」
種はバイト初日に戦ったアロエ・ギガンティカ。
ザクザク切れる手ごたえ抜群の植物モンスターだ。
あの手ごたえは最高だった。
さあ来い、俺のハルバードの餌食になれ!
ポイっと放り投げた種が水浸しになるように狙いを定めて水がめを蹴り倒す。
あっという間に種が内側から押し広げられ、黄緑色の新芽が起き上がってくる。
その威容は確かに初日に見た姿とよく似ていた。
だが、どこか何かが違う。
怪しい地響きがして、足元が振動している。
「地震?」
巨大アロエの根元の硬い地面にバリバリと地割れが広がっていく。
蜘蛛の巣のように広がる地割れ。
俺は本能的に後ろへ飛びのいた。
間一髪。
地割れは巨大な陥没となり、アロエ・ギガンティカの巨体を飲み込んだ。
水がめと大量の土砂と共に。
後には直径20メートルくらいの深い穴が残るだけだった。




