スチームガール②
「申し訳ありませんでした」
ケイトリンさんが深々と頭を下げている。
とりあえず怪我も火傷も無さそうだ。
ちょっと髪型が乱れているけど、まあそのくらいで済んでよかったよ。
水がめが爆発したのかと一瞬思ったけど、そうではなかった。
陶器の水がめが『破砕した』のと『中身が噴出した』のが同時に起きたのだ。
飛び散る破片、一瞬で熱湯になった水、吹き出す高温蒸気。
一番近くにいたケイトリンさんは大やけどを負ってもおかしくなかった。
無傷で済んだのは不幸中の幸いだ。
熱々の陶器に冷たい水を一気に大量に入れると、温度差で割れることがあるから気を付けようね。
ついでに高温の水蒸気なんかが充満してると、入れた水は熱湯に早変わりして高温の水蒸気と一緒に飛び出してくるから、もっと気を付けようね。
良い子は真似しちゃいけないよ!
「陶器は温度変化に敏感でな。熱膨張差で割れるんだわこれが」
「申し訳ありません、先生。私の失敗です」
「うむ。魔法の蒸気はどこまでも高温になるから注意しんしゃい。高温になった容器にいきなり冷水を注ぐのではなく、ゆっくり時間をかけて冷ましてから注ぐように」
「以後、気を付けます」
ジェレマイアさんがのんびりした口調で諭している。
さっきはケイトリンさんがジェレマイアさんの我儘っぷりを諭していたのに、立場逆転か。
「形あるものは皆いつか壊れる。壊れたもんは片づけておくから、倉庫から予備の水がめを持ってきんしゃい」
「はい、先生」
ケイトリンさんは小屋へ向かって走り出し……何もない平らな地面で自分の足につまずいて、ずでーんとすっ転んだ。
……。
誰も何も言わなかった。
ケイトリンさんは無言で立ち上がり、何事もなかったかのように走っていった。
もしかしてこの人、ドジっ子なのでは?
「新人、ちょっといいか」
俺は冒険者の皆さんに少し離れた所へ連れていかれた。
「見ていて分かったと思うが、ケイトリンちゃんは本当に真面目な子なんだ」
「真面目にやっててアレなんだ」
「笑いを取ろうとかふざけてとかじゃないんだ」
「本人真剣なんだから笑ってやるなよ? いいな? 温かい目で見守るんだぞ?」
口々に擁護する冒険者の皆さん。
それがこの現場の不文律ということですね?
不文律なら仕方がない、受け入れますけども。
「はあ…分かりました」
ドジっ子属性。
だが性格は委員長タイプ。
失敗したら本気で反省して勉強し直す。
笑ってごまかしたりしない。
テヘペロとか絶対やらない。
そういうタイプ。
そこは理解した。
理解はしたけど、温かい目で見守ってていいのか?
マッドアルケミストとドジっ子の師弟コンビって危なくないか?
この実験農場、大丈夫か?
そして俺の農業研修は安全なのか?
「本当にいい子なんだよ、ケイトリンちゃんは」
『いい子』だけど安全な子ではないよね?
そうやって擁護してて巻き添えになったら怪我するのは俺たち冒険者なんだよ。
不慮の事故に備えて、薬草ドリンクを多めに持っておく方がいいかもしれない。
ダンジョンの空は青く澄み切っているけど、俺の前途には暗雲が立ち込めているような予感がした。
暗雲どころか、後に俺はこう振り返ることになる。
あれはハリケーンだった、と。




