スチームガール①
「先生、また我儘言って皆さんを困らせてるんですか?」
性懲りもなく植物モンスターの種を芽吹かせようとするジェレマイアさんを冒険者総掛かりで取り押さえていると、背後から可愛らしい声がした。
振り向くと、15~16歳くらいの女の子がいた。
生真面目そうな人間の女の子だ。
ジェレマイアさんのと似たレトロなデザインのゴーグルを頭に着けている。
先生と呼ぶからには弟子だろうか?
「おう、ケイトリン。皆を説得してくれんか。素晴らしいインスピレーションが閃いたというのに、これこの通り、過剰に心配されて困っておるんだ」
「困っているのは皆さんの方ですよ、先生。皆さん、いつも済みません。うちの先生が我儘言って」
ケイトリンと呼ばれた少女はジェレマイアさんを諫め、冒険者に向かって頭を下げた。
「いいってことよ、ケイトリンちゃん」
「そうそう、俺らも慣れたから」
「いつものことだよな」
「全然平気だから、気にしなくていいよ」
冒険者たちが口々に言う。
そして俺にこそっと耳打ちしてきた。
「新入り、あの子はおやっさんの弟子だ」
「真面目な子だからちょっかい出すなよ」
「礼儀正しく一定の距離を保て」
「傷つけないようにな」
なるほど、現場のアイドルということか。
派手さはないけど、若い女の子だからね。
男ばかりの過酷な現場で紅一点として大切にされているのだろう。
ケイトリンさんは師匠のジェレマイアさんを懇々と諭している。
「先生、皆さんに予定外の労働を強いてはいけません。収穫スケジュールは決まっているんですから」
「若いのに頭が固いな。もっと柔軟性を持たにゃあ。柔軟な発想は錬金術には必須だぞ」
「柔軟な発想と予定にない思いつきの行動は違います」
「本っ当に固いな~。ストーンヘッドと呼ぶぞ? アイアンガールの方がいいか?」
「なんと言われようと構いません。ここは工房じゃないんです。収穫作業員の皆さんと足並みそろえないといけないんですから、突然の行動は控えてください」
聞くともなしに聞いていると、弟子のケイトリンさんの方がジェレマイアさんの手綱を握っている感じだ。
お説教口調が学級委員っぽい。
表情も真面目を絵に描いたような感じで、全然笑わない。
この世界の転生者ってゲーム感覚で生きてたり、良くも悪くも人生をエンジョイしているマイペースな人が多いと思ってたけど、こんな風にガチガチに真面目な人もいるんだね。
「とにかく、この種は私が預かります」
「あっ、何をする」
ケイトリンさんがジェレマイアさんからナツメヤシの種を没収した。
高く手を上げてしまえば、ドワーフであるジェレマイアさんは届かない。
ケイトリンさんはジェレマイアさんより少し背が高いのだ。
「儂の種~、返しんしゃ~い」
「ダメです」
ぴょんぴょん飛び跳ねて種を取り返そうとするジェレマイアさん、取られまいとするケイトリンさん。
揉み合いというほどでもなく、じゃれてる程度の事だったのに。
運が悪い時ってあるものだ。
取られまいと抵抗した弾みに、ケイトリンさんの手から種がすっぽ抜けた。
種は大きく弧を描いて飛んでいき、重力に従って落下した。
水がめの中に。
※
「済みませんでした」
ケイトリンさんが深々と頭を下げて謝罪している。
「いいってことよ、ケイトリンちゃん」
「そうそう、俺らも慣れたから」
「おやっさんの突然の思い付きはいつものことだよな」
「全然平気だから、気にしなくていいよ」
水がめの中に落下したナツメヤシの種は一気に水を吸って発芽し、巨大ナツメヤシ型植物モンスターとなって俺たちに襲い掛かった。
全員が素早く応戦し、俺もハルバードで闘った。
アロエ・ギガンティカに比べると幹が固くて『ザクッ』というより『ズバッ』という手ごたえだったけど、重厚感があり、悪い感触ではなかった。
悪くはなかったけど…。
「先生に予定外の作業を増やさないように言っておきながら、私自身が予定外の作業を増やしてしまいました。申し訳ありません」
ケイトリンさんは生真面目に謝罪を続けている。
「いやいや、ケイトリンちゃんのせいじゃないから」
「そうそう、あれは不可抗力ってやつだよ」
「誰のせいかって言えばおやっさんのせいだよな」
「気にすることないって」
何故だろう、冒険者の人たちのケイトリンさんを見る眼差しが妙に温かい。
「水が無くなってしまいましたので補充します」
ケイトリンさんは砂にまみれて転がっている水がめをよっこいしょ、と起こした。
「容器洗浄します。高温高圧水蒸気洗浄、Καθαρισμός με ατμό」
呪文を唱えて水がめに手をかざすと、水がめは勢いよく噴出したスチームで殺菌洗浄された。
ただでさえ暑い砂漠風ダンジョンに更なる熱気がもうもうと立ち込める。
「洗浄終わりました。冷水を補充します。水作成、Δημιουργία νερού」
ケイトリンさんの手から大量の水が……ってちょっと待て。
熱した陶器に一気に冷たい水を注いだりしたら!
「総員、退避~」
ジェレマイアさんが意外な素早さで物陰へと隠れた。
冒険者たちも素早く遮蔽物の裏へと身を隠す。
一拍遅れて俺も伏せた。
0.1秒後。
パリン、と乾いた音を立て、水がめが破裂し、ドカンと大量の水蒸気が俺たちに降り注いだ。




