サボテンの花咲いてる砂と岩のダンジョン⑥
魔改造された忘却のハルバードは切れ味が抜群に良かった。
巨大な植物モンスター、アロエ・ギガンティカの触手のような枝のようなものを切りつけると、気持ちがいいほどスパスパ切れる。
一振りするごとにザクッ、といい音を立てて枝が落ちる。
その音、その手ごたえ。
なんだろう、この楽しさは。
遊園地のネズミ叩きゲームとは大違い。
植物をばっさり切るのって、なんか健全な感じの快感だ。
生き物切ってる感触じゃないんだよ、リンゴとかキャベツとかの切ってもいい物を切ってる感触なんだよ。
植物も生き物ではあるけどアロエ・ギガンティカは魔物だし、動物型の魔物や妖精に比べると嫌悪感も罪悪感もこれっぽっちも湧いてこなくてひたすらに爽快!
植物系の魔物を伐採するのってこんなに気分爽快なんだね。
「おう、坊主、なかなか筋がいいじゃないか」
「俺んとこに弟子入りするか? 植木屋だけど」
冒険者の人たちの中に植木屋さんがいた。
まあフラワーデザイナー連盟の花子さんも冒険するんだから、冒険する植木屋さんがいてもいいよね。
弟子入り……しちゃおうかな?
植物をザクっとやる感触の気持ちよさを思うと、これを職業にするのも悪くない。
連携を取るというほどのチームワークも必要なく、四方八方から切り刻むだけでアロエ・ギガンティカは倒せた。
地面に散らばるのは大量のドロップアイテムと思われる枝葉と花などアロエ・ギガンティカの死体(?)の断片が散乱している。
「拾え拾え、皆の衆~。拾わんとダンジョンに吸収されてしまうぞ~」
ジェレマイアさんの号令で冒険者の人たちがドロップアイテムを回収する。
ジェレマイアさん自身もどこから取り出したのか背負い籠を背負い、トングを手にしてヒョイヒョイとアイテムを拾っている。
その動きは早い、冒険者より素早いんじゃないだろうか。
「敏捷なドワーフ……」
ドワーフの種族特性に反しているような気がするが、深く考えてはいけない気もする。
きっとこの世界のドワーフは敏捷性が高いんだよ。
俺も近くに落ちているものを拾って回った。
枝も花もけっこう重たい。
切り口を見たら瑞々しいゼリー状の何かが詰まっていた。
それを見て、こんなに巨大でもやっぱりアロエなんだなあ、と思った。
拾い終わったドロップアイテムを一か所に集める。
ここはジェレマイアさんの実験農園であり、倒したアロエ・ギガンティカは農園の栽培品なので、ドロップしたアイテムは農園の収穫物という扱いになる。
戦ったのは冒険者だけど、拾ったアイテムは冒険者の物にはならない。
その分、報酬が支払われるから不満はない。
むしろアロエの輪切りを渡されても困るので、ジェレマイアさんに回収してもらう方がいい。
「大漁、大漁~」
ジェレマイアさんはご機嫌でアロエ素材を計測している。
緑色の枝葉と赤い花の部分をより分けたり、重さを計ったり。
軽量器具が天秤、それも上皿天秤じゃなく、皿が紐で吊るされているデザインってところがなんともレトロ。
「それ、アンティークっぽくていいですね」
「わかるかね、この良さが」
ジェレマイアさんは天秤に分銅を乗せながら自慢げに言う。
「儂は昔からこの手の道具類が好きでな。アナログの良さというか、古き良き時代を感じさせる道具に心惹かれるんだなこれが。コーヒーミルも手回しが好きだったし。こうゴーリゴーリと豆を挽く感触がなんともいえず」
「わかる気がします」
「子供の頃に祖父母と一緒に石臼で大豆や米を粉にしたことがあるのだが、あのゴーロゴーロと回す感触も楽しくて」
「やったことないですけどわかる気がします」
「子供の頃にテレビ時代劇で小石川養生所の医者が薬研で漢方薬材料をゴリゴリとすり潰すのを見て、それがなんとも気持ちよさそうで、いっぺんやってみたくて」
「さすがにそれはわからないです」
そもそも薬研って何なのかがわからない。
石臼やコーヒーミルと同系列で、固い物を粉にする道具なんだろうけど。
この人、レトロな道具が好きというより、何でも挽いて粉にするのが好きなのでは?
「薬研への憧れが今の儂を形作ったと言っても過言ではない」
「コーヒーミルから錬金術への飛躍が大きすぎる気もしますが、固い物を粉砕する気持ちよさはなんとなくわかる気がします」
「わかってくれるか」
同士よ。
俺とジェレマイアさんは握手した。
ついさっき植物をズバッと切る感触の気持ちよさに目覚めたばかりだしね。
そこは共感するよ。
手ごたえの快感っていうのは人を虜にするよね。
そんな風に共感を覚えていたら、ジェレマイアさんが物騒なことを言い出した。
「アーウィン君よ、我が理解者よ、君ならきっとわかってくれると思うのだ。ひとつ更なる大物を切ってみんかね。癖になるぞ~。ちょうどここにほれ、乾燥地適応・超短期成長型ナツメヤシの種が。どーれ、ここらでちょいと一雨」
作業中だった冒険者の人たちが一斉に殺気立った。
「またやらかす気か!」
「いきなりやるなっつってんだろうが!」
冒険者の皆さんはよってたかってジェレマイアさんを取り押さえた。
「何をするのかね皆の衆~」
「やかましいわマッドアルケミストが!」
取り押さえられながらもジェレマイアさんは往生際が悪く、種をなかなか手放そうとしなかった。




