サボテンの花咲いてる砂と岩のダンジョン③
天才錬金術師として紹介された依頼人はジェレマイアさんという名前のドワーフだった。
「重ねて失礼な質問ですが、ドワーフで錬金術師ってあんまり聞いたことないんですが」
「よく言われる。ミスマッチだとな。が、これも合理的選択の結果でな。そもそも儂は最初から錬金術師になりたくて転生したのだが」
ジェレマイアさん曰く、転生時に神様相手に『錬金術師になるルートで』と希望を出したところ、転生先に錬金術が無いことを知らされた。
「そこで一瞬絶望しかかったのだが」
絶望の淵で踏みとどまり、転生後に錬金術を自主開発しても良いという許可をもぎ取ったのだそうだ。
「その時、どうすれば錬金術を開発できるか、とっさに儂は考えた。薬草を用いた調合技術と鍛冶技術と魔法は既にあるのだからして、それらを統合すればいけるのでは、とな」
調合技術と鍛冶技術と魔法を極めるには、それぞれの技術を習得しやすい環境と才能が必要、とジェレマイアさんは考えたそうだ。
「ドワーフになれば手っ取り早く鍛冶スキルは生えて来そうだし、手先が器用だから調合も得意だろうと予想してな」
「器用さはともかく、ドワーフって魔法を使いこなすイメージないんですけど」
「そこはそれ、この世界にはスペルライターがあるからな」
スペルライターとは、魔法使いのエバちゃんから聞いたことがある魔法を覚えるための特別なアーティファクトだ。
これを使って脳に直接インストールするのがこの世界での正しい魔法習得方法(裏技はあるけど)である。
神殿が所有するスペルライターを利用するのに必要なのは、法外な料金。
高いので俺はまだ一度も使ったことがない。
「知力もセンスも関係ない、金さえ払えば魔法など覚え放題。すなわち金儲けが魔法習得の近道。ドワーフになって手先の器用さを活かし、製作物を売りまくるのが吉! …と思ってな」
「とっさにそこまで考えたのは凄いと思いますけど」
実際、その通りに行動したのだろうし。
結果、こうして錬金術師になってるし。
賢い人だと思うけど、そんな計算でドワーフになっちゃった辺り、目標に向かって一直線すぎて、周りをあんまり見ない人なのではないだろうか。
だってドワーフになったら髭もじゃ低身長。
女性にモテなさそうだし、もう少し背が欲しいとか思うことはないのだろうか。
今も人間用の椅子が高すぎて足がつま先立ちになってるのに。
「ドワーフの体に不満はないんですか?」
「ないな。高い所の物を取りたかったら脚立を使えばいいだけだし。筋力あるから固い素材も楽々扱えるし、人間よりも目がいいし、体力底なしだから徹夜もへっちゃらだしな」
「仕事のことばっかりですね」
「儂の場合、二度目の人生は錬金術やるためにあるからな」
迷いなしか。
強がりでないなら、見上げた根性である。
俺には到底真似できない。
「それで、今回の依頼内容なんですけど、『農業研修』と聞いてるんですが」
「うむ、軽く説明するとだな。錬金術と農業の関係についてだが」
ジェレマイアさん曰く、錬金術は薬学を元にした技術であり、様々な薬草を素材として用いる。
そのため、必要な薬草の一部は実験農場で栽培しているのだという。
「短い時間で大量に収穫するため、バイトを雇って一気呵成にやるのだが、今回はそれと並行して一つ実験をと思ってな。なんでも転生から間もない新人ならばレアアイテムをゲットする確率が高いとか」
「それ、どこ情報ですか」
「冒険者から聞いたな。ダニエルという冒険者だが」
「やっぱりか!」
ダニエルさん、あっちこっちで俺の個人情報をばらまいている!
俺になんの恨みがあるんだ!
いや、騙された分の仕返しはしたけども。
仕返しの仕返しをされているのなら、それに対しても仕返しをしてもいいよね?
負の連鎖だ。
いつかダニエルさんの嫌がることをしてやる!
何をしたらいいかとっさに思いつかないけど!
仕返しを胸に誓いつつ、ジェレマイアさんの話の続きに耳を傾ける。
「新人に収穫させれば素材の品質が上がるかもしれんと思ってな」
「ビギナーズラックは確かにありそうなんですけど、ダンジョンでのドロップ限定ですから、農園での収穫には当てはまらないのでは?」
「そこは問題ない」
ジェレマイアさんは莞爾と笑った。
「儂の農場はダンジョンにあるからな」




