サボテンの花咲いてる砂と岩のダンジョン②
「ギルドから呼び出し? 俺にですか?」
コクリと頷く女将さん。
銀猫亭で呼び止められて…というか無言で手招きされて書いたメッセージを見せられて…俺は嫌な予感がした。
半人前の新人が呼び出されるなんて、ミスして叱られる以外に何があるだろうか。
……ベテランがやりたがらない雑用を命じられる可能性もあるか。
あんまり大変な用件ではありませんようにと神殿のお守りに祈りつつ、俺はギルドに出向いた。
※
「あら、団体交渉以来ですわね。その後お変わりなくって?」
「あ、ご無沙汰してます」
ギルドの入り口前で花子さん(と俺が勝手に内心で呼んでいるフラワーデザイナー連盟会長さん)にバッタリ出くわした。
いいとこのお嬢様がそのまんま年食ったようなお上品なおばさまだが、その正体は花き農家のオバチャンである。
オバチャンなので、知り合いに出会ったら親しく話しかけてくる。
俺はちょっとこの人苦手なんだけど。
よく知らない相手だけど、なぜか『戦闘やらせたら鋤持って暴れまわる人、強い、怖い』というイメージがあるのだ。
まあ、この世界の女の人は大体みんな強くて怖いけど。
気弱で非力そうな人って銀猫亭の女将さんくらいしか知らないな。
「そろそろ職業を決める時期ですわね。よろしかったら農業研修受けてみませんこと? 我々はいつでも若い労働力を歓迎いたしますわよ?」
「あ、えーと、お誘いはありがたいんですけど、ちょっと他にやることが」
嘘です、やること決まってません。
でも農業研修のお誘いに乗ったが最後、逃がしてもらえない予感がするので、ここはお断り一択。
「あら、そう? もう内定がおありなの? それはよかったわね。いつまでも職業が決まらないと困りますものね」
「あはは、ありがとうございます」
愛想笑いで5分くらい雑談に付き合い、なんとか会話を切り上げ、ギルドへすべり込む。
花子さんは悪い人じゃないけど圧が強くて、会話すると疲れるんだよね。
あー、肩凝った。
首を回すとボキボキ鳴った。
※
冒険者ギルドの受付カウンター。
いつものようにソニアさんが退屈そうにしている。
「こんにちはー。呼ばれてると聞いて来ましたー」
「呼んだわよ。仕事よ」
「そっちか! まさかまた変な指名依頼では?」
「変と思うかどうかは人によるわね」
「ということは指名依頼なのは当たってるんですね?」
「新人を指定した依頼なのよ。うちのギルドで職業未定の新人っていったらあんたくらいしかいないから、実質的に指名されたも同然ね」
「まさかですけど、またレアアイテム狙いとか」
「依頼内容は『農業研修』となってるわね」
「農業研修」
それ、さっき花子さんに誘われて断ったばっかなんですけど。
※
詳細を聞いてみると、花子さんの『フラワーデザイナー連盟』とは別口の農業関連事業のようだった。
「依頼人は薬師ギルド所属の錬金術師ね」
「なんで錬金術師が薬師ギルド所属なんですか」
錬金術師なら錬金術ギルドではなかろうか。
「錬金術ギルドが存在しないからよ。というか昔は錬金術なんてもの自体が存在しなかったんだけどね。この依頼人が創設したらしいわ。近年になって作られた新しい職業分野ね」
「錬金術師って新しい職業なんですか」
ちょっと意外。
剣と魔法の世界なのに。
「薬の調合をする薬師なら昔から職業としてあったのよ。でも薬草以外の調合、特に金属を合成して別の金属を作るなんていう発想はこの世界にはなかったのよね。そういうノウハウも道具も存在しなかったし。そこをゼロから作り上げた天才がこの人なのよ」
ゼロから作り上げた天才。
すごい転生者もいるんだな。
この世界、曲者と際物しかいないと思い始めてたよ。
「で、そのすごい天才の依頼がなぜに『農業研修』なんでしょうか?」
「依頼人に直接話を聞く方がいいと思うわ」
※
というわけで依頼人との面接である。
「依頼人のジェレマイアである。よろしくな」
そう言って大きな手を差し出して握手を求めてきたのは、身長がやけに低く、豊かなあごひげを蓄えた筋肉ダルマのおっさんだった。
…って、どう見てもドワーフじゃん!
岩妖精のワンダーランド洞窟地下一階のドワーフ酒場に大量にいた呑兵衛たちとそっくりじゃん!
「失礼ですが、ドワーフですよね?」
「いかにもドワーフだ」
ジェレマイアさんはなぜか自慢げに胸を張った。
天才錬金術師がドワーフ。
いや、いいんだけどね、種族差別しちゃいけないし、職業選択は個人の自由だ。
でもドワーフと錬金術って違和感あるよね、違う?
そう感じるの俺だけ?
俺はまじまじとジェレマイアさんを見た。
ごついグローブ、ごついブーツ、ごついゴーグル、黒いレザージャケットに同じくレザーのベスト。
錬金術師というより、完全武装の冒険者、あるいは前世アメリカのバイカーといった風情である。
ごそごそと荷物から仕事の資料を取り出すジェレマイアさん。
そのベストの背中には赤い花を咲かせたサボテンの刺繍…いやよく見ると刺繍ではないな、アップリケが縫い付けられている。
いい歳の男性が服の背中に赤い花のアップリケって。
やっぱりこの世界、曲者と際物しかいないかもしれない。




