サボテンの花咲いてる砂と岩のダンジョン①
やばいやばいやばい、何がやばいって日にちが、時間が!
転生して一年以内に職業を決めないと天から望まぬ職業が降ってくるというのに、その一年のうちすでに半分が過ぎようとしている。
そしてまだ就職の糸口すらみつかっていないという現実。
どこかに求人情報転がってませんか?
できれば『魔法の武器持ち優遇』みたいな条件で!
※
魔力が見えるというミラーカさんに指摘され、自分の持ってる棒が魔法の武器だと知った俺。
ついでに付与されている魔法が『忘却』であることと、その効果もざっくり教えてもらったのだが…。
「ぶっちゃけ行き詰ってるんですよ」
「そうか?」
俺はバートラムさんに愚痴を聞いてもらっている。
ギルドの酒場でテーブルにはエール風味のノンアルと焼き鳥。
人狼とか魔狩人がどうとかいう危なそうな話題には言及を避けつつ、岩妖精のワンダーランド洞窟の探索について経緯をざっくりと話した。
「ミラーカさんの言うこと疑うわけじゃないんですけど、一応念のためにソニアさんに鑑定してもらったんですよ、この棒」
「ほー。で、どうだった?」
「本物でした」
そう、確かに魔法の武器だった。
付与されている魔法も間違いなく『忘却』だった。
「良かったじゃねえか」
「だけど使いどころがないんですよ」
ミラーカさんは『相手が都合の悪いことを忘れてくれる』と言ってたけど、人間を棒で殴ったらそれ自体がトラブルの元だ。
なので使い所が難しい。
殴った俺は悪くない状況が必要になる。
「忘れたいのに忘れられない何かで悩んでいる人とかいたら、有効活用できるかな、と思ったんですけど」
「ま、そんなやつあんまりいねえよな」
そうなのだ。
この世界の住民は大部分が転生者ということもあり、妙にメンタル強い人が多い。
トラウマ? んなもん一度死んだことに比べれば。みたいな感じで、全然後ろ振り向かないし立ち止まらない。
心の傷らしきものを抱えていそうな人というとセシルさんだが、あの人は地雷持ちな割にはポジティブだ。
少なくとも『美しいエルフの男性と恋がしたい』という願望を消し去りたいとは思ってなさそう。
むしろ独身エルフ男子が転生してくるのを今か今かと待ち構えてるのでは。
…逃げてー! 男エルフ転生者、今すぐ逃げてー!
それはさておき。
「一応、グレアムさんに精神治療で必要な時には声かけてくれるように言ってありますけど」
「棒で叩かなくても、魔法で治せるもんなら魔法で治すだろうな」
「そうなんですよねー」
神官の治癒魔法の中には精神に働きかけるものもあるらしい。
だったらわざわざ棒の一撃を食らうような痛みを伴う処置をする必要はない。
「結局、戦闘で使うしかないんですけど、それも有効な戦術が思いつかなくて」
「スライムなんかだと忘れさせるまでもなく、何も考えてないもんなー」
そうなのだ、俺が倒せるような低位の魔物はそもそも知能が低い。
スライムとかネズミとか、たとえ『忘却』の効果で戦闘中だということを忘れさせたとしても、旺盛な食欲ですぐまた襲い掛かってくるので意味がない。
もっと頭のいい魔物だったら…例えばリッチなど呪文を唱えてくる魔法使いタイプの魔物だったら、殴ることで呪文をど忘れさせるなんてこともできるかもしれないが…。
「高級なこと考えてそうな魔物だとレベルが高すぎて俺が相手できないんですよ」
「ゴブリンにも負けそうだもんなー」
否定はしない。
この世界のゴブリンと戦ったことはまだないけど。
「そんなわけで魔法の武器なのに宝の持ち腐れなんですよ」
「まあ『折れない・錆びない・すり減らない』ってだけでも上出来なんじゃないか?」
それは確かに。
さくらの棒を1日でダメにしていたことを思えば、使い減りしないから買い替え不要なのはありがたい。
でもそれだけって!
つまんないじゃん!
せっかくの魔法武器なのに。
もったいないじゃん!
誰かこの棒の活用方法、考えてー!
「それよりアーウィン、武器の性能はやたらと人に言うもんじゃねえぞ。特にその『忘却』だったか? その手の魔法は悪用しようと思えばいくらでもできるからな」
忠告めいたことを言われてもピンとこない。
殴った相手に物忘れさせる棒にどんな悪用方法が?
「そうだ、酒場のバーテンダーを殴れば、俺が未成年であることを忘れて酒を飲ませてくれるのでは?」
「殴った時点で酒場から放り出されるからやめとけ」
忘却の棒、役に立たない。
そんなことを思っていた俺に冒険者ギルドからお呼びがかかったのは三日後のことだった。




