ほろ酔い吸血鬼
挿絵入れてみました。酔っぱらって暑くなったミラーカが日よけ3点セットを外して暗闇妖精を猫かわいがりしている図です。
酔っぱらってにゃい、という自己申告は信用しないことにする。
絶対酔ってる。
黒猫にアイアンクローをして離さないミラーカさん。
『ランプ出せー、ランプ出せー』と言いながら揺さぶっている。
言葉が通じないのかフシャーフギャーと暴れるだけの黒猫こと暗闇妖精。
どれだけ揺さぶられてもランプを落とす気配はない。
「グレアムさん、あれ正気に戻せませんか?」
「解毒魔法で酔いが醒めるか試してみてもいいですが、この場所にいる以上、酒気帯びは避けられないと思いますよ」
酒気帯び。
つまり状態異常。
立ち込めるお酒の匂いでも酔っぱらってしまうのか。
岩妖精のワンダーランド洞窟、意外な落とし穴、いや天然の罠?
「じゃあどうしたら」
「どの程度酔っているのか確かめてみましょう。話してわかる酔い方なら良し、我を忘れて暴れるようなら静かになってもらいます」
「静かにって…」
グレアムさんは無言で微笑んだ。
具体的に何をするかは聞かない方がいいみたいですね。
グレアムさんは穏やかな声で話しかけた。
「ミラーカさん」
「はひっ!?」
裏返った声を出し、ミラーカさんはぴたりと静止した。
黒猫(暗闇妖精)の頭部を持ったままで。
「吐き気や動悸はありませんか?」
「大丈夫です!」
「むかむかして気分が悪いようなことは?」
「大丈夫です!」
「気分の落ち込みとか、無性に腹が立って何かを殴りつけたいような衝動はありませんか?」
「全然大丈夫です! いつも通りです!」
「では何か異常を感じたらすぐに知らせてください。魔法で楽になると思いますので」
「ら、楽にはしなくて大丈夫です! どうかお気になさらず!」
やたらと裏返った声を張り上げてるし、ほとんど『大丈夫です』しか言ってないし、猫を持ったまま凍り付いたポーズのままだし、手の先でぶら下がった猫が暴れてるし、どう見ても不自然なのだが、本人がいつも通りだと言うのなら、これが通常モードということで……。
いや違うだろ。
仮面装着してるからわかりにくいけど、グレアムさんを視界に入れないようにしてるフシがある。
やっぱりグレアムさんのことが怖いんだ。
吸血鬼にとってそこまで脅威なのか、神官は。
だが一応ミラーカさんの行動は落ち着いた。
暗闇妖精を振り回さなくなった。
「グレアムさん、あれなら酒乱ってほどでもないですよね?」
「そうですね。ほろ酔い気分で楽しそうですね」
いえ声かけられた瞬間に恐怖で酔いが醒めたように見えましたけど。
今もほら、急にテンション下がってるし、猫を地面にそーっと下ろして頭を撫でてるし。
撫でられる猫も困った顔してるけど。
「とりあえずあの一匹はミラーカさんに任せておいて、別の個体をおびき寄せましょう」
グレアムさんは荷物の中からもう一本焼き鳥を出した。
美味しそうな匂いが立ち込める。
すると暗闇から黒いものがスッと寄ってきて。
「はい、確保」
「フシャーッ!」
あっという間に二匹目の黒猫が捕まった。
入れ食いだ。
「こいつらは食べ物の匂いに惹かれて寄ってくるんです。焼き鳥に限らず、野菜でも何でも食べる雑食性です。単純な道具を使う知恵はありますが、商取引の概念はないらしく、欲しい物は盗み取るだけです。姿かたちは猫に似ていますが、魔物の一種なので攻撃するとアイテムを落とします。このように」
グレアムさんが黒猫の頭をグーで殴った。
一切のためらいなし。
あれは痛い。
猫、目から星が出そう。
その場できりきりきり……と三回くらい回って、バッタリと倒れる黒猫。
「撲殺!?」
「殺してませんよ」
2秒くらいすると、おもむろに起き上がった猫はキョロキョロと左右を見て、明かりのない暗がりへと走って逃げていった。
後に猫用サイズのショルダーバッグを残して。
なんだろう、この光景、見覚えがある。
殴られて倒れる猫、でも死んでなくて、すぐに起き上がって、アイテムを落として逃げていく……。
「モン〇ンのメ〇ルーか!!」
これは偶然か、それとも転生者による前世模倣?
ともあれ、暗闇妖精はアイテムを落とした!
俺は小さなポーチを……じゃなくて、ショルダーバッグを手に入れた!




