岩妖精のワンダーランド洞窟
そこは鍾乳洞とトンネルを合わせたみたいな空間だった。
通路脇を小川のように澄んだ水が流れている。
天井からつららのような岩が下がり、所々に石の柱や動物の牙のような形の石が立っている。
足元は平らに整えられて意外と歩きやすい。
「洞窟って言うからもっと歩きにくいのかと思ってました」
「人の手で整備されていますから。発見された当時はもっと歩きにくかったと思いますよ」
だらだら歩きながら雑談に興じる。
事前にソニアさんにレクチャーされたところによると、この『岩妖精のワンダーランド洞窟』は転生者によって発見された自然洞窟型のダンジョンである。
「この洞窟を発見した人はドワーフで、職業は炭鉱夫、坑道を掘るのが大好きな人でした。前世からの趣味だったそうです」
「坑道を掘るのが趣味の人なんて前世にあんまりいそうにない気がしますが」
「四角いブロックで出来た地面をひたすら掘っては資源をクラフトするゲームにハマっていたとか」
アレか。
「アレをリアルな世界でやるのって相当無理がありませんか?」
「ドワーフですから。採掘スキルとクラフトスキルが生まれ付き備わっていますし、筋力と体力が並外れています。片手にツルハシ、片手にTNT爆弾で硬い岩盤も突破して掘りまくったそうです」
「凄い人ですね、ていうか危ないドワーフ?」
TNTって。
「地形を変える勢いで穴を掘っていたら、偶然にもダンジョンを掘り当ててしまったというわけです」
「運がいいんだか悪いんだかわからないですね」
「魔物は出ますが資源も採れますから、幸運と言って良いでしょう。調査された結果、なかなか良いダンジョンだとわかり、地底の穴倉をこよなく愛する変人どもが多数押し寄せました。ドワーフ村の出来上がりです」
「今サラッとドワーフをディスりませんでした?」
「気のせいです。このダンジョンにはドワーフが喜ぶ要素が詰まっていました。地下、洞窟、酒」
「酒?」
「洞窟内を滴り落ちる水は石筍を作るだけでなく、苔、菌類、植物などを育みました。このダンジョンに自生するある植物から採れる樹液は飲用可能で、芳醇な味わいの醸造酒になるのです」
「樹液のお酒って…」
「魔法植物なので地球の植物とは異なる進化を遂げています。樹液が酒になるくらい普通です。そのようなわけで、このダンジョンはドワーフにとって夢の楽園、『岩妖精の驚異の大地洞窟』なのです。ここは彼らのテリトリー。暗闇妖精を狩るにはドワーフ村を通り抜けなくてはなりません」
狭い通路の突き当たりにある扉をグレアムさんが開けた。
その先に広がっていたのは……。
ムワッとした熱気。
大勢の人が歓談し笑う声。
焼肉の煙、タレの匂い、揚げ物の油の匂い。
カチャカチャと食器がぶつかる音、飲み物を注ぐ音。
赤い提灯とランタンの光。
無造作に並べられた低いテーブル、それを囲む髭面の低身長な筋肉ダルマたち。
「焼き鳥追加〜。ネギマとハツとボンジリとレバーと」
「盛り合わせでいいだろ」
「唐揚げにレモン掛けるなよ。酸っぱくなるだろ」
「バカヤロ、ビタミン摂れってんだよ。肉ばっか食ってると身体に悪いだろ」
「大丈夫、わしら人間じゃないから。ドワーフだから酒飲めばビタミンを合成できる」
「それもそうだ」
「酒は栄養だ」
「飲め飲め」
「ドワーフと言ったら〜」
「酒だー!」
「酒と言ったら〜」
「「「ダンジョン酒だー!」」」
笑い転げる髭面のおっさん(ドワーフ)たち。
かなり騒々しい酔っ払いが大勢で盛り上がっている。
飲んでるのもドワーフ、食べてるのもドワーフ、給仕してるのも肉を焼いてるのも皆ドワーフ。
どこもかしこもドワーフ、ドワーフ、ドワーフ。
この世界、こんなにドワーフがいたんだね。
壁にはたくさんのお品書き。
そして落書きなのか歓迎のメッセージなのか、『ようこそドワーフ村へ! 酒飲み歓迎 飲めない方はご遠慮ください』の文字。
ところでさっきからミラーカさんが一言もしゃべってないんだけど?
「ミラーカさん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫じゃないかもです」
地下なのに日除け3点セットを装備したままのミラーカさんは仮面越しに震える声で答えた。
「私、お酒飲んだことないのです、生まれてから一度も…」




