愛の献血運動⑤
『貧血気味なんです』と言えば断れただろうか。
いや、その場しのぎの言い訳は自分の首を絞めるだけだっただろう。
実際、ミラーカさんから逃げ回ってた時、全力疾走しても全然平気だったわけだし、貧血とかどの口が言うのかって感じだよね。
この際、下手な言い訳はせずに正直に言おう!
「不安なので誰か付いてきてください」
「それもそうね」
ソニアさんが理解を示し、サポート役を付けることで話がまとまった。
よし、これで道連れができた。
一人だけ不幸になってたまるか!
一蓮托生、誰が来るか知らないけど巻き込んでやる!
※
そして当日。
サポートに来てくれたのは良く知ってる人だった。
「グレアムさん! ありがとうございます、とっても心強いですグレアムさん!」
「こちらこそよろしくお願いします、アーウィンさん。そしてミラーカさん」
神官だよ、神官!
吸血鬼に対してこれほど心強い味方はいないよね。
巻き込んだ相手が善人だったら良心がチクチク痛んだかもしれないが、グレアムさんなら遠慮は要らないような気がする。
悪人だとは言わないけど、内面黒いし。
むしろ吸血鬼退治する側だし、聖印持ってるし。
吸血鬼には十字架だよね!
この世界の聖印は形がちょっと違うけどね。
普段は首から提げている聖印を今日は見えないように服の下にしているグレアムさん。
ミラーカさんへの気遣いなのだろう。
だがしかし、
「ひぃいいいー!」
ミラーカさんはグレアムさんの姿を見ただけで悲鳴を上げて後ずさった。
『ひいー』って悲鳴あげる人、本当にいるんだ。
『キャー』とか『うわー』ならよく聞くけど、『ひいー』は初めて聞いたよ。
ちなみに日中なので例によってミラーカさんはマント・手袋・仮面の怪人三点セットを装備している。
怪しい扮装をした人が神官を前にして怯えまくっている様子はとても怪しい。
まあ吸血鬼にとって聖印や聖水は危険物だし、神官は殺し屋のようなものなんだろうけども。
あれっ、でも、血液供給も神殿が仲介してるんだよね?
実は定期的に取引をする間柄なのでは?
そう考えるとミラーカさんの怯え方が不自然な気もする。
「えーと、ミラーカさん。こちらは冒険者のグレアムさんです。今回サポート役として同行してくれることになっています」
「どどど、同行ですか!?」
どもってる。
「『岩妖精のワンダーランド洞窟』での探索をお望みとか。非力な身ですが、当該ダンジョンの探索経験がありますのでご安心ください。依頼主の安全にできる限りの配慮をいたしますよ」
にこやかに片手を差し出すグレアムさん。
「よよよ、よろしくお願いします…?」
挙動不審な態度で握手に応じるミラーカさん。
よほど怖いのか手がブルブル震えている。
ふと思ったのだが、現状の力関係は、グレアムさん>ミラーカさん>アーウィン。
しかしグレアムさんは物理攻撃最弱なので、物理攻撃に限っては俺の方が上。
となるとこれは三すくみの関係なのでは?
…違うな、グレアムさんは俺のことカケラも恐れてなかったわ。
単純に自分が一番下だと確認しただけだった。
※
冒険に行けば自分が一番下っ端なのはいつものことだ。
新人ですから、初心者マークが取れてないですから。
グレアムさんは内面はどす黒いけど表面上は親切だし、ベテラン勢の中では優しい方だ。
少なくとも真面目な指導と説明をしてくれる。
「『岩妖精のワンダーランド洞窟』は地下迷宮型ダンジョンですからミラーカさんにも快適な環境ですよ」
「そそそ、そうですか」
「明かりは魔法の照明とセーフティーゾーンで焚かれる篝火だけです。我々は夜目が利かないので、探索中は魔法で足元を照らしますが、害のない光ですよ」
「そそそ、そうですか」
「盾役がいませんので隊列はあまり意味がないのですが、とりあえず案内役の自分が前に、依頼主のミラーカさんが真ん中、後ろにアーウィンさんでやってみましょう」
「そそそ、そうですか」
カチコチに固まったミラーカさん、受け答えが全部同じになってる。
本当にグレアムさんが怖いんだなあ。
あれだけビビッてくれてると、こっちの不安と緊張がどこかへ飛んでいくよ。
そんな風に暢気に構えていた俺はこの後に起こる出来事を知る由もなかった…。




