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総転生世界 〜All Reincarnation World〜  作者: ful-fil
チュートリアル ここは転生者だらけの世界
7/72

クレリック ③

 薬草採取は単価が安い。

 花びらが枯れて種が出来ている物、蕾からやっと開いたばかりの物、どちらも1本1ストーン。

 25本集めればグレアムさんへの謝礼金が払える。

 宿屋に泊まって食事もしたければ、50本集めなくてはならない。

 しかしヒマワリ(薬草)はデカい。

 カゴとか持ってないので、グレアムさんから教えてもらって蔓草をロープ代わりにして薬草を束ねて結ぶ。

 10本の束が5つ出来た。

 これで本日のノルマ達成だ。

「背中に括り付けると両手が空くので便利ですよ」

「二宮金次郎スタイルですね」

「背負子があるともっと便利ですけどね」

 グレアムさんが手際よく背負わせてくれる。

 この人にチュートリアルをお願いして正解だったかもしれない。

「武器を持つために両手は空けておかないといけません。この森にもスライムは出ますから。あ、ほら、さっそく出ました」

 グレアムさんが指差す先は桜の木の上だった。

 よく見ると透明なゼリーのような物が揺れている。

「ああやって梢から狙っているのですよ。気づかず下を通ると上から落ちてくるスライムに頭皮を溶かされるのです」

「頭皮を!」

 なんと恐ろしい!

「顔を溶かされることもありますし」

「顔を!」

 なんと恐ろしい!

「気の毒な女性冒険者が襟の中に入りこまれて胸を溶かされた事例もあるそうです」

「胸を! 許せませんね!」 

 なんとけしからん!

「なので見つけたら積極的に討伐することをお勧めします。こうやって木から落として」

 グレアムさんは桜の幹をドンと蹴った。

 スライムがポト、と落ちた。

 地面で雫状に丸まっている。

「魔法で焼いたり凍らせたりしても良いですし、武器で殴っても良いです。素手で触らないように気をつけて下さい。酸性の消化液を吐くので危険です」

 グレアムさんは木の棒でスライムをピシャリと叩いた。

 スライムは形を失い、ドロドロと地面に吸い込まれていった。

 後に残った指の先ほどの石にグレアムさんは水筒の水をジャバジャバかけた。

「魔石も酸が付着している恐れがあるので、触る前にこのように軽く水洗いしてください」

 グレアムさんが見せてくれた魔石は小さいけれど透き通った綺麗な石だった。

「スライムの魔石、一個で1ストーンです」

「一個で1ストーン……」

 安い。

 でも惹きつけられる。

 この世界に来て初めて感じる異世界ロマンだ。

「一個で1ストーンの、スライムの魔石……」

 美しい、と素直に思った。


挿絵(By みてみん)


 じんわりと感動を噛み締めていると、

「あ、これはいけません。アーウィンさん、見て下さい」

 グレアムさんが指差す方を見ると、何やらブーンと羽音を立てて飛んでくる物が。

「蜂ですか?」

「似てますがフェアリーです」

 この世界のフェアリーはオニヤンマくらいの大きさで、蜂のような羽音を立てて、手に槍を持って飛んでいた。

「彼女たちはミツバチに近い性質を持っています。花の蜜を集めるのです」

「そうなんですね」

「そして我々は薬草の花を大量に集めて持っています」

「まさか」

「狙われています」

「それってヤバいのでは」

「彼女たちの手にしている槍は毒針です」


 走った。

 二人して必死に走った。


「スライムしか出ないんじゃなかったんですか!」

「運が悪いと別のも出るんです! 森の外には追ってきませんから、急いで!」

「グレアムさん、魔法とかで一掃出来ないんですか!」

「自分は回復専門です! 攻撃魔法皆無です!」

「だったら物理で!」

「回復専門なので、自分の物理攻撃は最弱を自負しています! ぶっちゃけスライムにしか勝てません!」

「使えねえ!」

「使えねえのはテメエもだよ(低い声)」

「今なんか言いましたか!?」

「解毒には自信があります!」

「使う羽目になりたくねえ!」

「タダで使ってもらえるのが当たり前だと思ってんじゃねえよ(低い声)」


 なんかまた低い声が聞こえた気がするけど、それどころではない。

 走った。

 必死に走った。

 背後に迫るブーンという羽音に背筋を凍らせながら、ひたすらに走った。

 そしてやっと森の出口にたどり着いた。

 へたり込んで肩で息をする。

 生きてる、俺、生きてる。

「いやー、いきなり大当たり引いちゃいましたね。アーウィンさん。無事に逃げきれたのはきっと神様のご加護ですよ。街に帰ったら神殿でお祈りをしましょうね」

 にこやかに、爽やかに、善良そのものの顔で言うグレアムさん。

 だけど走ってる時、なんか低い声が聞こえた気がするんだよな。

 もしかしてこの人……。

「……本音は?」

「新入り、すっげー運悪いな。厄落とししとかないとこっちの運も下がりそうだよ。お布施はずめよ。神のご加護は有料だ」

 ニコニコ笑顔でサラリと言われて、俺は脱力した。

 親切な人なんだけど、腹黒い。

 偽善と露悪の二段構えというか、建前と本音の落差が酷い。

 本音を漏らしてくれる分だけ信用できるとも言えるが……。

「お布施っておいくらですか」

「お気持ちで」

「本音は?」

「お守り一個100ストーンから。払えないなら来なくていいよ。神にすがる前に自力で稼げ。お布施の重さが誠意の重さ。誠意のないお祈りなんざいらねーんだよ」

 トゲが、言葉のトゲが。

 どストレートすぎて、心がザクザク抉られる。

 優しさを、優しさを下さい。

 言葉だけでもいいから。

「……締めはオブラートにくるんだ方でお願いします」

「神様はいつでも貴方を見守っていらっしゃいますよ」

 ニコニコニコニコ…。


 『腹黒神官』グレアム

職業:クレリック

特技:回復、解毒、解呪

魔法攻撃:不可

物理攻撃:最弱

知力:高め

性格:善人のロールプレイを心がけているが、修行が足りないのでちょいちょい地が出る毒舌家。

雇用料金:25ストーン/日


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