愛の献血運動④
『暗闇ランプ』とは何か。
ソニアさんの解説によればそれは魔道具の一種である。
普通の魔力ランプはスイッチを入れれば周囲を明るく照らし出すが、暗闇ランプは闇が輝きだして周囲を暗くする。
いや、『闇が輝きだす』って意味わからないんですけど。
闇って光が遮られた状態のことだよね?
闇という物質が放射されるわけじゃないよね?
「魔法だから、科学では説明できないこともあるのよ」
そう言われると黙るしかないんだけど。
とにかく暗闇ランプを起動すると、晴れた日の直射日光下でも夜のように暗くなるらしい。
効果範囲はさして広くはないようだけど、人一人をすっぽり包むくらいは余裕なんだとか。
「暗闇ランプがあれば『明るい』工場でも働けると思うんです!」
力説するミラーカさん、うなずくソニアさん。
「効果としては期待できるでしょう。ですがかなりのレアアイテムです。入手は保証いたしかねますが」
「もちろん、無理をお願いしていることはわかっています。ですが諦めたくないんです。少しでも望みがあるなら賭けてみたいんです」
激レアアイテム、暗闇ランプ。
その入手方法というのが。
「ダンジョン『岩妖精のワンダーランド洞窟』に同行してください。そして一緒に『暗闇妖精』を倒してください!」
特定のダンジョンに出る特定の魔物を討伐して、そのドロップアイテムを狙うことだった。
「アーウィンさんのビギナーズラックがあれば、きっとドロップすると思うんです。報酬はきちんとお支払いします!」
「え~と」
同情すべき点はある、けど吸血鬼だし、やっぱり怖いし、ダニエルさん経由なのも気に入らないし、暗闇妖精というのもなんだか危なそうだし…。
お断りしようとした時、ソニアさんに襟を掴まれ立たされた。
「確認事項がございますので少々お待ちくださいませ」
※
俺は今、ギルドの裏でソニアさんにシメられている。
「わかってないみたいだから言うけど、あの人はね、人間を襲ったことのない吸血鬼なの。吸血衝動を理性でコントロールして、堅気の仕事に就いてる善良な市民なの。危険人物扱いしたら失礼に当たるの。そこまではわかる?」
「わ、わかります」
「人間離れした怪力を持ってたり怪我してもすぐに治ったりひと睨みで相手を麻痺させたり出来ても、暴力を振るうことなく法を守って平穏に暮らしてる人なの。地道にコツコツ働いて人に迷惑かけずに生きてる真面目な人なの」
「わ、わかります」
「そんな人をあなた吸血鬼だから同行出来ませんって突き放したらどう思われる? 困った時に冒険者ギルドに依頼したのに助けてくれなかった、そんな印象持たれたらどうなる?」
「えーと、ギルドのイメージダウン?」
「そうよ、指名依頼を断ったあんたも、契約をまとめられなかった冒険者ギルドも、両方のイメージが悪くなるのよ」
「でも冒険者にだって仕事を選ぶ権利が」
「『吸血鬼だから』は理由にならないのよ。それを理由に断ったりしたら吸血鬼全体から睨まれることになるのよ。下手すれば国中の吸血鬼が敵に回るのよ!」
冒険者にも吸血鬼はいて、その戦闘力は人間の冒険者の比ではないという。
「たった一人でも『不当な扱いをされた』って口実を与えたら、それをきっかけに人間対吸血鬼の全面対決になりかねない。うちのギルドの総力をもってすれば勝てないとは言わないけど、犠牲は出る。あんた責任取れるの?」
「取れません…」
「そうでしょう。だから雑な対応しちゃいけないのよ。いかなる種族だろうと依頼主は依頼主として真摯に対応する決まりなのよ」
吸血鬼だろうと、ゾンビだろうと、依頼主ならお客様、とソニアさんは言う。
お客様であるミラーカさんには誠実な対応をしないといけない。
「ギルドに来る前に冒険者に直接声掛けたのはフライングだけど、それ以外は正規の手順を踏んでるし、依頼内容に違法性はなく、危険度も高すぎない。報酬を支払う意志も示してるし、支払い能力もある。拒否する理由がないわ。強いて理由を付けるとしたら、冒険者側の自己都合、例えば健康上の理由とか……」
ソニアさんは不穏な目つきで俺を見た。
「…片腕骨折で全治一ヶ月とかなら断れるかもね?」
「すみません反省しました折らないでくださいお願いします」
本気で折ったりはしないと思うけど、異世界だからね!
ほのぼのしてると見せかけて時々ワイルドだから、この世界!




